お面をつけた女の子と黒猫が遊んでいます。
おばあちゃんの家の仏壇のあるへや。
竹やぶにかこまれた古いお堂。
お墓の奥にたくさん並んでいるお地蔵さん。
家と家の細い路地。
神社の階段からふときた道をふりかえれば、誰もいない夕暮れ時。
本当にいたらこわいけどなにかを期待して、
こっそりとのぞいてしまう、ふりかえって見てしまう気持ち。
いそうだけどいるわけない。
そう思った女の子の背後から近づく鬼のようなゴツゴツした異形の手。
お面がはずれたとき、私たちは女の子の本当の表情を初めて見ることができるのです。
見開いた女の子の目には、一体何が映っていたのでしょうか。
京極夏彦さんが挑んだ「京極夏彦の妖怪えほん」シリーズ5巻の1冊『ことりぞ』。
本物の「妖怪」とは何かを問う渾身のシリーズです。
妖怪とは、本来、日本の風土と文化、その土地で暮らす人々の喜怒哀楽や心が生みだしたもの。妖怪に親しむことで、私たちのふるさとを知ることができ、今を生きることの自覚につながるのだと、シリーズ監修者・東雅夫さんは言います。
この絵本のタイトルにもなっている「ことりぞ(子取りぞ)」とは、島根県出雲地方で伝承され、夕方暗くなるまで外で遊んでいる子どもをさらう妖怪のことを言うのだそう。シリーズの中で、「妖」をテーマに作り出されたこの絵本は、日本画家の山科理絵さんの描く摩訶不思議な日本の原風景が魅力の一つです。
岩絵の具、墨、金箔など日本の伝統的な画材で描かれた妖しい別世界。
心を奪われる美しさの中に畏怖の念を抱かずにはいられない、山科さんの絵の魅力が存分に味わえます。
さあ、絵本をひらいて・・・。
「たべちゃうまえに はやくおかえり」
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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