この絵本には、言葉がありません。ページをめくる人の想像と読み方にゆだねられた、無限の広がりと自由さを秘めた一冊です。
ある日、広い大地に突然現われた巨大なたまご。テレビで放映されたり、人々がこぞって見物にやってきたりします。やがてたまごの周囲にはロープウェーや階段がめぐらされ、その頂上には旗までひるがえり、まるで観光地のようになっていきます。そんなある日、巨大な鳥が現われて……。
木炭で描かれた力強い単色の絵に、心をぐっとつかまれました。色がついていない分、同じ絵を見ても、見る人によって、まったく違った印象を受けそうです。たとえば雲の色。嵐を呼びそうな雲にも見えますが、美しい夕焼けや朝焼けのようにも見えます。空をのびのびと飛ぶ巨大な鳥の姿は、おそろしくもありますが、生命力の象徴のようにも。
このたまごは、なぜここにあるのか? その中に入っているものは、いったい何なのか? それは、生きているのか死んでいるのか? と、ページをめくるにつれて、たくさんの疑問と好奇心が生まれてきます。階段や旗など、まわりにいろんなものをくっつけられ、巨大なクレーンや防護壁に囲まれたたまごは、大きな爆弾のようにも、巨大なタンクのようにも思えます。人工的なものでうめつくされたたまごは、まるで、人間にとってコントロールが可能なものであるかのように見えます。たまごのことは、何もわかっていないのに、と、そのギャップがとても印象的でした。
子どもから大人まで、年齢を問わず想像力をかきたてられる絵本です。家族みんなで何が見えるか話し合うと、驚きと意外な発見があるにちがいありません。さあ、皆さんには、このたまごが、何に見えますか?
(光森優子 編集者・ライター)
続きを読む