里から山につながる雪野原を、赤い毛布をまとった男の子が、山の家を目指して登って行くところから物語は始まります。
それを、小高い山から眺めているのは、雪狼をつれた雪童子。雪婆んごが遠くへ出かけている間に、季節の移り変わりを告げにやって来た雪童子は、男の子にヤドリギの枝を投げてやりました。
雪童子の姿は目には見えないので、びっくりしてその枝を拾う男の子。ヤドリギがその後、自分の命を救ってくれるお守りになるとつゆも知らずに。
そこへ突然、冷酷な雪婆んこが戻って来て、一帯を吹雪で荒らすよう雪童子たちに命令するのでした。あの雪童子だけは、男の子の泣き声に心を痛め、「毛布をかぶって倒れておいで」と懸命に教えますが、男の子には吹雪の音しか聞こえません。雪に埋もれていく男の子の運命は…。
黒井健さんのイラストは、雪の怖さと美しさを同時に伝え、物語をより格調高いものにしています。雪狼や雪童子、吹雪の描写は、透き通るような青と白を基調にし、その中でけなげに生きる人間の命や春への希望が、毛布の赤、ヤドリギの萌え木色によって象徴されているようで心に沁みます。
水仙月とは、春近い頃をさす、賢治の創作の月だそうです。冬の厳しさを、雪婆んこや雪童子といった架空の存在に例えて、雪深い地方のドラマチックな季節の移り変わりを、美しく幻想的に描き出した作品です。
(長安さほ 編集者・ライター)
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