ある朝、突然ティースプーンくらいに小さくなってしまうおばさん。ところがおばさんはちっとも動じません。「おやまあ、なんてこった!」とぶつぶつつぶやきながら、「小さくなっちゃったんなら、それでうまくいくようにやらなきゃならないわね」と動物たちに家の掃除をさせ、フライパンやつぼをなだめすかして、ご亭主の昼食のパンケーキまで焼いてしまうのです。おばさんののびのびしてユーモラスなこと、マカロニ・スープやコケモモジャムのおいしそうなことといったら!
作者、アルフ=プリョイセンは、ノルウェー出身の作家。1914年(100年も前ですね)に片田舎の農場で働くまずしい両親のもとにうまれたため、彼自身も幼い頃から農場で働き、学校に行きませんでした。
でも彼のゆたかな才能は、自然に人々に知られるようになりました。あちこちのお祭りや踊りの場で、自作の歌をうたってよろこばれ(歌をうたうのも上手だったそうです)、やがて書いた物語が評判になり、とりわけ人気を得たのがティースプーンおばさんのお話だったそうです。本は各国語に翻訳され、世界に愛される作家になりました。日本では1980年代にテレビアニメ化され、NHK総合で「スプーンおばさん」として放送されます。本書はその原作です。
お話のなかで小さくなったおばさんは、カラス会議に出席してカラスとおしゃれを競ったり、夏至祭りの焚き火用の木にのぼって燃やされそうになったりします。おばさんがひき起こす珍事件は、どれも不思議さと、陽気さにあふれています。そうそう、忘れちゃいけない、愛するご亭主との愛嬌あるやりとりや、おばさんの小気味いいせりふも、クセになっちゃうほどわくわくしますよ!
プリョイセンの特徴を、訳者の大塚勇三さんが「農村の吟遊詩人としてそだってきたよさ」と表現していますが、まさにそのとおり。おおらかで素朴で、やさしくてへこたれない『小さなスプーンおばさん』に、きっとこれからの時代も多くの人々が癒され、勇気づけられるでしょう。「人間が生きること」の普遍的なおもしろさを教えてくれる、傑作です。
(大和田佳世 絵本ナビ編集部)
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