6年生のリナは、夏休みを過ごすために、ひとりで霧の谷へやってきます。手にはかばんと、柄にピエロの顔がついている、白地に赤い水玉もようのかさを持って。道に迷っていると、かさが風にふわりと飛ばされ、あとを追ううちに小さな町へとたどりつきます。深い森の中に赤やクリーム色の家が6軒。石畳の道がつづき、まるで外国のようです。
下宿屋のピコット屋敷に滞在することになったリナですが、女主人であるピコットばあさんは温かく歓迎するどころか、リナを目の前にして、思ったことをずけずけと言います。しかも「働かざる者、食うべからず」がモットー。働いたことなんてないリナは、自分に何ができるのかしらと、途方に暮れるのですが……。
表紙を開くと霧の谷の地図が出てきます。眺めているだけでもわくわくしますよね。この「めちゃくちゃ通り」と呼ばれる道には一風変わった人たちばかり住んでいます。黒パンたくあんマヨネーズサンド(!?)が好物の本屋のナータ、やさしい目をしているのに、ぶっきらぼうな水夫のトーマス、お面をはずさない男の子サンデー……。でも、リナは、本人も気づいていないその人のいいところを探しだす名人みたいです。
四季の花々が同時に咲き乱れ、ケンタウロスやこびとが道を歩き、小鬼がおかしをわけてくれる。そんな不思議にあふれた毎日ですが、この生活を通じて、リナは自分自身を見直し、これまで目にしていても気づかなかった「身の回りにある素敵なもの」に気づいていきます。この変わった町もリナの発見も、魅力たっぷりで、愛さずにはいられません。初めてひとりきりで、未知の世界に飛び込むこの物語は、新しいことにチャレンジしようとする子どもたちの背中を優しく押してくれます。
何を隠そう、私自身も小学生のときにこの物語が大好きでした。リナが、お姫様みたいにカンペキな女の子ではなくて、ちょっとふっくらしていて、不器用で、人一倍好奇心があって……というところに、とっても親近感を感じました。夢中になって何度も読んだから、物語の細かいところまで覚えています。さあ、今度は皆さんに水玉もようのかさをお渡しします。素敵な町を楽しんできてください。
(光森優子 編集者・ライター)
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