いつもぶうたれているネコがいました。
なぜって、人間から逃げ出したときにちぎれた尻尾は痛いし、仲間と魚の骨をとりあいしたときに塀から落ちて折れた足は痛いし、大好きな黒ネコは車にひかれて死んでしまうし、「あーあ、やんなっちまうよ」「あたしがいったい何をしたっていうんだい。こうなったのは、みんなだれかのせいさ」と言いたくなることばかりだったからです。
ある日、空き家を出るために崩れた板をどけていると、ネズミの子どもが「ふぅー、たすかったあ」と言って出てきました。本当はとびかかってつかまえたいのに、体が自由に動かないぶうたれネコは、ぷいっとネズミの子を無視して、知らんふり。
その日もツイてないことばかりで風邪を引き、ふらふらで帰ってきたネコに、ネズミは「(助けてくれて)ありがとう!」と看病をします。
ぶうたれネコはだんだん不思議な気持ちになってきて・・・?
誰もが心に抱えたことがある、ねたましさや投げやりな気持ち。
きむらゆういちさんが書くストーリーはいつもちょっと切なくて、でも目の前の誰かのことを信じよう、と気持ちが変わっていくのが不思議。
驚くのは、絵を描いたエムナマエさんが、全盲のイラストレーターであること。エムナマエさんは紙をひっかくように線を引き、その跡を指でなぞって確かめながら絵を描いて、奥様にイメージする色を伝え、色を置いてもらって彩色するそうです。
表情ゆたかなネコ、そして水彩の配色には透明感が溢れ、とても失明した方が描いたと思えない明るい世界が広がっています。
ネコとネズミが並んで見上げる夜空の場面が印象的。
チャーミングでまっすぐな絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
続きを読む