子うさぎと母さんうさぎのお話です。 ある日のこと、子うさぎは家を出てどこかに行ってみたくなりました。そこで母さんうさぎに「ぼく、逃げちゃうよ」と話すと、母さんうさぎは「おまえが逃げたら、母さんは追いかけますよ。だって、おまえはとってもかわいいわたしのぼうやだもの」と答えました。「母さんが追いかけてきたら、ぼくは魚になって泳いでいっちゃうよ」と子うさぎ。すると、母さんうさぎは「おまえが小川の魚になるのなら、母さんは漁師になって、おまえをつり上げてあげますよ」と答えました。「母さんが漁師になったら、ぼくは母さんよりもずっと背の高い山の上にある岩になるよ」と子うさぎ。すると、母さんうさぎは……。
子うさぎと母さんうさぎの、追いかけっこのような会話がほほ笑ましい絵本。愛されているからこそ逃げたい、でも最後には安心できる場所に戻りたい――そんな幼児心理が、うさぎの親子の会話を通して描かれています。初版は1942年。モノクロとカラーページが見開きで交互に登場する構成は文章に弾みをつけ、次はどんな問答なのか興味をかき立てます。特にカラーページは母さんうさぎの答えがそのまま描かれ、子うさぎと母さんうさぎがいろいろなものに変身して登場。魚になったり、岩になったり、このちょっぴり奇妙な変身が子供たちの目を奪うことでしょう。 子うさぎが想像の中でどんなに逃げても、母さんうさぎは子うさぎを納得させる答えで追いかけて大きな愛を証明するのですが、この「愛」の形が世代を超えて読者を魅了する秘密のようです。作中、同作者コンビの著名作『おやすみなさい おつきさま』のような場面があるので、こちらもお見逃しなく。 ――(ブラウンあすか)
1942年が初版の絵本の古典。幼児の好みを知りつくしているブラウンの傑作です。ウサギの母子の間に交わされるほのぼのとした会話の中に理想の母子像が浮かびあがります。
子どもを持つ母親の心情を描いた絵本は数多くありますが、中でもこの絵本が私の気持ちにぴったりでした。
「ぼくにげちゃうよ」「おかあさんはおいかけますよ」
全編、このやりとりなのですが、その追いかけかたが決して押し付けがましくなく、ユーモラスで、心がほっとあたたかくなります。
今までは母親べったりだった息子も、いよいよ来春は幼稚園。
「ようちえんバスにのって、バイバイするよ、なかないよ。
おかあさんは、おるすばんしていなさい」
(なぜか私に似て命令口調)
と、鼻の穴をふくらませて言うもんだから、思わず
「いやだ。寂しいからお母さんもついてっちゃおうかな」
と言うと、
「だめ。ここはおかあさんようちえんではありません。
おかあさん、きんし!って、せんせいにおこられちゃうよ」
と、一蹴されてしまいました。
今までぎゅっと握り締めていた砂が、指の間からさらさらと零れ落ちるように、母親から「逃げて」成長してゆく息子。
それを、そっと気づかれないように後ろから見守りつつ、自由に走り回る息子の邪魔をしないように、大きく両腕を広げて追いかけてゆくのでしょうね。これからも。 (けいぼんさん 40代・ママ 男の子3歳)
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