インドネシア・ジャワ島に古くから伝わる影絵芝居、ワヤン。結婚式や誕生日などのお祝いや儀礼の場で、「魔よけ」として一晩じゅう上演されるそうです。その中でもこども達に人気の物語がこの「スマントリとスコスロノ」。はるかむかし、天神の神々が人間の世界とゆききしていたころの物語。
少し長いようにも感じますが、二人の兄弟がそれぞれたどる運命を丁寧に読んでいけば子ども達でも楽しめる、起伏に富んだ魅力的な内容だという事がわかります。特にスマントリが神の化身でもある巨大な王に立ち向かっていく場面の迫力といったら。
ワヤンの世界に魅せられた乾千恵さんが、長い期間をかけて特に愛着のあるこの物語の再話をされてきたのだそうです。そして絵を担当された早川純子さんが、その物語が体の中で消化できるまで更に時間をかけ、最終的に木口版画という繊細かつ迫力のある表現方法で完成した渾身の一作となったのです。実際に目で確かめる為にインドネシアまで行き、イメージが固まるまで繰り返しスケッチし、繊細な線で掘り出し、美しい色合いで刷りだされたその仕上がりの素晴らしさ。エネルギッシュで強烈なその物語を見事に盛り上げてくれます。(完成までに10年もの年月が経ったのだそうです!)
大人が持っておきたい記念すべき作品である事は言うまでもなく、こうした「気迫」のある絵本というものが子どもの心に残していくものは大きいに違いないと断言できるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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