なっちゃんは、バスケットに赤いりんごをひとつ入れて、だいすきな丘の上にのぼってきました。
嬉しそうに手のひらの上でりんごをはずませる、なっちゃん。
そしたら…… あらあら、たいへん。
りんごは、なっちゃんの手をはなれてころころ。
坂道をころがるりんごを追いかけていく、なっちゃんと動物たち。
ようやくりんごをつかまえて、丘の上までもどるなっちゃんたち。
そうして、みんなでほおばる、真っ赤なおやつのおいしそうなことといったら!
いわむらかずおさんが描く鉛筆の線はいきいきと息づき、丘の草花がほんとうに揺れているように感じられます。
一枚一枚、絵をゆっくりめくりながら感じるのは、まるでモノクロの美しいスライド映像を見ているような贅沢。
静かな躍動感、絵本をよむよろこびを、しみじみ感じさせてくれます。
「14ひきのシリーズ」以前に描かれたこの作品には、作者いわむらかずおさん自身の、幼少期の疎開先での原風景がこめられているのだそうです。
1979年に初版出版後、フランス、ドイツ、スイス、中国、台湾など世界各地で読み継がれてきました。
日本ではしばらく入手が難しくなっていましたが、このたび初版を定本とし、あらたな作品として待望の出版となりました。
りんごを一心においかける姿。
りんごをながめ、香りをかぎ、かじる、ひとりひとりの表情。
最後までモグモグとかみしめる、しあわせの余韻。
読み終えるとき……赤いりんごのかがやきと、未来のいのちを思う尊さに、思わずぐっときてしまうのです。
何度もページをめくりたくなる、いわむらかずおさん初期の傑作絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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「なっちゃんはおかのうえがだいすき。」
丘の上でりんごを食べようと取り出すと、うっかり落としてしまいました。
「まってよまって、わたしのりんご。」
うさぎやりすもいっしょに追いかけます。りんごがくるりんとまわると、りすもうさぎもなっちゃんもくるりん。
くまの背中でどすん!とようやくとまりました。
「おかのうえでみんなでたべよう。」と言ったのはなっちゃん。
シャクシャク、ショリショリ、おいしいね。
残ったたねは丘の上にまくことにしました。
このたび、1979年に銀河社より刊行された『りんごがひとつ』を復刊いたしました。復刊にあたり、判型がひとまわり大きくなりました。
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