魔法使いの父と二人きりで暮らしてきたむすめは、会ったことのない母親や、自分の名前のことが知りたくなりました……。
魔法使いと娘の二人暮らし。
娘は名前もなく、生い立ちも知らないのです。
閉ざされた世界に生活していて、外の世界も他人も知らない。
考えるとすごいことです。
娘は知識を得ることも情報もないから、何の疑問も感じないで育ったのです。
子どもの心の成長を考えるとき、とても恐ろしい話です。
なんの情報もなければ、姿かたちだけ大きくなって、まるで人形のようです。
魔法使いが自分の老いを気にして、娘の相手をするゆとりがなくなります。
そして不用意に娘に与えた本の数々。
娘は知識を吸収し、知恵を育てていきます。
魔法使いは「失敗した」と思うのですが、娘の自我が育ち自立が始まります。
もともと名前がないという設定がすごい。
魔法使いは親としての役割を果たしてはいなかったのです。
娘は初めて魔法使いに疑問を持ち、反抗します。
名前は何? 私は誰? 自分の母は誰?
心の成長がなければ反抗期は生じないのです。
やっとの思いで娘は外界に出て、実の親と再会します。
父親を早くに亡くした貧乏な母子家庭に起こった悲劇でしょうか。
この本は、ベトナム戦争の孤児を養女として迎えたアントニオ・バーバーが、その娘のために創作した物語だそうです。
物語としては少し冷たい感じがするのですが、養女はどのように感じたのでしょうか。
子どもの成長と親の心理的な関わり合いを考えるときに、とても学ぶところの多い本です。
ル・カインの絵が和洋折衷であるのは、題材となったアジアと西洋を意識してのことでしょうか。
芸術性と神秘性とどことなく幻想感の強い作品です。
内容を受け止めるのは高学年からヤングアダルトかもしれません。 (ヒラP21さん 50代・パパ 男の子14歳)
|