その日の公園で起きたことといえば、二匹の犬が出会ったことくらい。
とある公園のささやかな日常の風景も、四人の目を通して見ればそれぞれ、まるでちがう景色に写ります。
いばりんぼうな女性には、危険で不愉快な公園。
ひどく落ちこんだ男性には、うす暗くて陰気な公園。
つまらなそうにしている少年には、退屈でがらんどうな公園。
それなら、明るく元気な少女の目には、どんな景色に見えるでしょう?
同じ景色を見ても、気分によってまるきりその色合いが異なって見えることってありますよね。
だまし絵のような奇妙な風合いの絵が、そんな人間の不思議な心のありようを味わい深く描き出す、とても個性的な一冊。
登場人物の心情の変化に伴ってその彩りを変えてゆく公園の景色が、その時々で彼らがなにを思い描き、なにに心を寄せているのかを、詩的な絵画表現で情緒豊かに物語ります。
はじめからおわりまで、まるで夢のなかの景色を描いたかのような暗喩めいた絵が続くので、ひょっとすると少しむずかしく感じられてしまうかもしれません。
ただ、心のありようによって同じ景色も違って見えることを描いたこの本それ自体が、読者の心のありようによって解釈の異なってくる作品になっているというのは、なんとも好奇心がくすぐられます。
ちなみにわたしは最後のページを、穏やかな、しかしなんともせつない気持ちで読んで、絵本をそっと閉じました。
(堀井拓馬 小説家)
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