小さな野ねずみたちが、とうもろこしや木の実、小麦やわらをせっせと集めて運んでいる。みんな昼も夜もはたらいている。
彼らの住んでいる家は牧場に沿った石垣の中。豊かだったその場所は、お百姓さんが引っ越してしまったので、納屋はかたむき、サイロはからっぽ。おまけに冬が近い。食べ物を蓄えなくてはならないのです。
ところが、フレデリックだけは別。
ひとりでじっとしています。
「フレデリック、どうして きみは はたらかないの?」
じっとして陽に当たり、牧場を見つめ、ほとんど半分寝ているみたい。だけど、彼のこたえはこう。
「こう見えたって、はたらいてるよ。」
寒くて暗い冬のために光をあつめ、色をあつめ、言葉をあつめているのだと言う。一体どういうことなのでしょう。
やがて冬がやってきて、楽しく過ごしていたのもつかの間、食べるものが尽き、からだは凍え、おしゃべりをする気にもならなくなった。その時、立ち上がったのはフレデリック。彼はみんなの前に立ち、口をひらき、話しだしたのは……。
レオ・レオ二の描く絵本の世界の住人たち、その多くは小さく愛らしいものたち。この名作『フレデリック』もそう。愛嬌だって抜群です。だけど立ち向かっている問題はいつも骨太、なかなか考えさせられるのです。
仲間たちで生きていこうとする時、目の前に立ちはだかった問題をどう解決していくのか。答えは一つのようで、一つではなく。思いもよらない方法があることを否定することなく。そこにこそ、芸術の可能性が秘められているのかもしれなくて……。
もちろん、そんな堅苦しいことを言わなくても。
「これは まほうかな?」
日本では谷川俊太郎さんの翻訳により、子どもたちが存分にその素晴らしい世界を味わえるようになっています。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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