「ああ、気持ちよさそう…」
絵本を広げれば、そこに広がるのはいちめんの草原。
その草原に囲まれて一件の素敵な家が建っています。
ここは、高原の別荘。
夏休みになると、ユリはいつも大好きなおじいさんに迎えられてやってくるのですが、おじいさんはもういません。毎年やってくる同い年のヒカルくんも、今年は家族で外国に出かけてしまったので、今、この別荘に来ているのはユリとおかあさんのふたりだけ。
ある日、おかあさんがユリに言います。
「どこかで、わたしのハンカチ、見なかった?」
それは、亡くなったおばあさまの手作りで、小花の刺繍がある美しいハンカチです。
「わたし、おにわを見てくるわ」
ユリは帽子をかぶると、ひとりで庭に降り立ちます。
芝生の上をあちこち探していると、ユリの目の前を茶色のウサギが走り去っていきます。よく見ると、首のまわりには、見覚えのある白い布が結ばれています。
「まって、まってちょうだい!」
慌てて追いかけていき、草のしげみのその先でユリがふいに出会った光景とは…?
間もなく人手に渡る別荘。お隣の空き地も含めていずれホテルが立つというこの場所には、ユリたち家族のほかにもずっと暮らしてきた住民たちがいたようです。ユリは思いがけず、その不思議な最後の会議を目にしたのです。慎ましくも、案外しっかりした彼らの暮らしを、私たち読者も垣間見ることになるのです。
とにかく終始感じることの出来るのは、爽やかな風と気持ちのいい木漏れ日。岡田千晶さんは空気や温度まで描くことが出来るのでしょうか…限りなくユリに近い視点で物語を体感する気持ちにしてくれます。そして、このどこか半分夢のようなお話は、森山京さん最後の作品でもあります。大切に味わっていきたい一冊ですね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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