明るい子にも、おとなしい子にも。友達がたくさんいる子にも、ひとりぼっちが多い子にも。どんな子にだって、必ずぴったりとついてくる人がいるんです。それが「かげぼうし」。
梅雨が明けて、太陽がかっと照り付けている今日みたいな日は、特に「かげぼうし」はくっきりと見えます。
元気過ぎる男の子リョウくんは、もう、我慢できなくなって外へ飛び出します。それはもう走ったり、飛び跳ねたり。素晴らしいお天気ですからね。
……すると、あれ、あれれ?
いるはずの「かけぼうし」が見当たりません。
あまりの暑さと、リョウくんの落ち着きのなさに、どうやら遅れをとっているみたい。
ぜいぜいしながら言います。
「おおい、リョウ。ちょっとまっておくれよ」
そこからリョウとかげぼうしの奇妙なやり取りがはじまります。
一心同体だったはずの自分のかげぼうしが、自由奔放にふるまいだしたのです。
そりゃあ、海へ落されたり、物干し竿に干されたり、
ジュースをこぼされたりしたらね。
かげぼうしだって、意思を持つ日があるのかもしれません。
『ぽたぽた』(理論社刊)所収の三木卓さんの「ジュース」を新たに絵本化したこの作品。切れ味の良い文体からは、三木さんの言う「かげぼうしのことなんか忘れてしまうほどの元気な子」の魅力が伝わってきますし、何と言っても杉浦範茂さんの描くリョウのユニークなこと!! 落ち着きがなく、片時もじっとしてない様子や、口をかっと開けて叫ぶ様子や、かみあってないかげぼうしとのやり取りを斬新な表現方法で描き出し、どの場面も少しも飽きることなく楽しませてくれます。
絵本のそでに書かれている三木さんの言葉どおり、子どもたちは生き生きと「かげぼうしを困らせながら」夏を過ごし、少しずつ大人になっていくのかもしれませんね。素敵な夏の物語です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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