絵を描くのがだいすきな、えんぴつ。
いつもひとりで絵を描いていたえんぴつがであったのは、消すのがだいすきな、ケシゴム。
消すのが好きとはいっても、ただ描いたものをなかったことにするのが好き、というわけではないのです。
えんぴつが描いた街並みのビルを減らして、空が見えるようにしたり——
花の咲く野原に、白い散歩道を引いたり——
はたまた、暗い夜空を星形に消して、星空に変えたり——
ケシゴムは、えんぴつが思いもしないことを考えつくのです。
ところが、それを見たえんぴつは、なんだかおもしろくなさそう……
ケシゴムを使って絵を描く、という発想の逆転が楽しい!
線を足すのではなく、引くことで描き出されるものもある、というのは、とても新鮮な驚きがありました。
個性的なイマジネーションと工夫によって、えんぴつの描いた絵をつぎつぎとパワーアップさせていくケシゴム。
そんな彼のことが気に食わないえんぴつは、
「さすがにこれは、ケシゴムのきみには、なんにもできないだろう!」
といって、なんの工夫もほどこしようがないような絵を、ケシゴムに見せます。
ところが、ケシゴムの創造性にかかれば、無理難題もなんのその!
やわらかな発想を通してながめる世界の、なんと自由なことでしょう!
創造すること、工夫することのたのしさがいっぱいにつまった、胸おどる一冊です。
物語の最後にあらわれる、定規やクレヨン、シャーペン、絵筆……
とくべつな道具を用意しなくても、やわらかな発想と工夫があれば、たのしい絵は描ける!
読み終わったらきっと、すぐにでも絵を描きたくなってしまうはずです。
(堀井拓馬 小説家)
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