「この混乱した世界を正すことを、
子どもたちからはじめましょう。
そうすれば、子どもたちがおとなたちに、
すすむべき道を示してくれるでしょう」
──── イエラ・レップマン 1945年
戦争で、ボロボロになった町。
ガレキと土くれで散らかったそこに、アンネリーゼと弟のペーターは住んでいました。
ひどい空腹に盗みの誘惑さえ覚え、落ちているオレンジの皮をかじっては、飢えをしのぎます。
食べ物はないかと市場を歩いていたふたりは、ふと、人々がおおきな建物にならんで入っていくのを見つけます。
なにか食べものをもらえるのかもしれない。アンネリーゼは、ペーターの手をとって建物のなかに入りました。
ところが、そこに食べ物はありませんでした。代わりにあったのは、たくさんの本! それも、様々な国の、様々な言葉で書かれた、世界中の「子どものための本」です!
イタリアの「ピノッキオの冒険」。スイスの「アルプスの少女ハイジ」。スウェーデンの「長くつ下のピッピ」。
大広間ではひとりの女の人が、子どもたちに本を読み聞かせていました。
彼女の名前は、イエラ・レップマン。「子どもの本」が、世界を変えると信じた女性です。
本作は、第二次世界大戦後のドイツを舞台に、悲惨な経験と飢えに苦しむアンネリーゼとペーターを通じて、イエラ・レップマンのつらぬいた理念を伝える一冊です。
「すばらしい子どもの本は、人びとが理解しあうための“かけ橋”になる」と信じ、子どもには食べものと同じように本も必要だと考えていたイエラ・レップマンは、のちに国際児童図書評議会を創設し、世界初であり世界最大の子どもの本の図書館、ミュンヘン国際児童図書館を作りました。
物語のなかでアンネリーゼとペーターが訪れたのは、イエラ・レップマンがミュンヘンの「ハウス・デア・クンスト」で開催した、実際におこなわれた図書展です。展示されたのは、イエラの理念に共感してくれた世界中の国々から贈られた本。そこには、戦争でドイツと戦った国から贈られたものもありました。
戦争で壊され、ボロボロになった、灰色の町。
色とりどりの本が並ぶ、カラフルな図書館。
そして、図書館を後にするアンネリーゼとペーターからフワフワと立ちのぼっているのは、物語の余韻を思わせるあざやかな花のモチーフ。
その目も覚めるような対比が、たくさんの本を前にしてときめくアンネリーゼたちの心のうちを、みずみずしく描き出しています。
本の力を信じ、行動を起こした女性。そして、彼女とであって物語の魅力に目覚めた、幼い姉弟。
幻想的でファンタジックなイラストと、そこに込められたパワフルなメッセージのギャップが魅力的な、おすすめの一冊です!
(堀井拓馬 小説家)
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子どもの本を通して希望の種をまく
戦後、混乱した街中で大きな建物の前に人びとの列を見つけ、少女は、弟の手を引いて建物に入りました。すると、そこにはたくさんの本が並べてありました。そして、ステキな女性と出会います。その人こそ、イエラ・レップマンでした。
イエラ・レップマンは、国際児童図書評議会(IBBY)、世界で初めての国際児童図書館(ミュンヘン国際児童図書館)を創設した人です。
どのようにして、子どもの図書展をスタートしたのかを語ることで、子どもの本の大切さを伝えています。
巻末に、イエラ・レップマンや、図書展についての解説もあります。
【編集担当からのおすすめ情報】
子どもの本に関わる人なら、だれもが耳にしたことのあるIBBY、また、ミュンヘン国際児童図書館を創設したイエラ・レップマンの物語です。
ユダヤ人であるイエラは、第二次世界大戦後、混乱したドイツに戻り、子どもたちに希望を与えることこそ大切であると痛感します。
「本」の力を信じ、「本」を通して世界平和を目ざしたのです。
IBBYの支部として活動しているJBBYの会長のさくまゆみこさんが翻訳しています。
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