ママが真夜中にぼくたちの部屋のドアを開け、ささやく。
「やくそく、おぼえてる?」
ぼくたちは、おしゃべりもせず着がえ、家族4人で玄関を出る。夏の夜は静かで、アヤメとスイカズラのにおいがする。窓のあかりが輝く大きなホテルの横や、ぼんやりと灯る町はずれの家の前を通りすぎ、どんどん歩いていけば、やがてそこは山のふもと。暗さに目が慣れてくると、感覚がどんどん研ぎすまされていくよう。木の皮のにおい、枯れ枝がぽきりと折れる音、さわさわと揺れる大きな木々の葉っぱ。
家族4人で訪れる夜の森。そこにあるのは、特別な体験。湖に映る月。草むらに寝っころがって見上げる星空。険しい山道。そして……。
深く美しい、青い景色で始まるこのお話。照らされているのはほんの一部。その暗さはずっと続く。それでも目を凝らしていけば、何もかもがしっかり見えてくる。家族と一緒だからこそ、わくわくできる真夜中の時間。こんな冒険ならしてみたい!
フランスから来たこの絵本。たとえ冬だとしても、昼間だとしても、こんな景色が身近になかったとしても。読み終われば、まるで一緒に体験したかのような清々しい気分に。最後のページのまぶしさを味わいながら、少し計画を立ててみようかと考えてしまいますね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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