むかしむかし、色とりどりの花であふれる国がありました。
皇帝や国中の人々が花を愛し、あちらこちらへ花の種をまいて、世話をしているのです。
少年ピンは、人一倍花を愛し、育てるのが上手でした。
ピンが育てると、草木はまるで魔法のように、みごとな花や実をつけます。
ある日、皇帝がお世継ぎを探すために、国中の子どもたちを集めました。
皇帝は子どもたちにひとつずつ、花の種を渡し、それを大切に育てて、一年後に見せにくるよう言いつけました。
ピンははりきって花の世話をしますが、どうしたことでしょう、種はいっこうに芽を出しません――
にじむような淡い色と、目の覚めるような鮮やかな色とのコントラストが楽しい一冊!
花と草木で溢れる水辺の風景は、空気に溶けるような色で描かれていて、ふんわりとやさしい風合い。
一転、子どもたちの服装やいろいろな鳥たちは、あざやかな朱色やまぶしい黄色、深い群青で描かれていて、目を見張る華やかさ!
子どもたちがそれぞれに花を持って皇帝に謁見する場面では、色とりどりの花々と子どもたちの服が立ち並び、まるで豪勢な花束を見ているようににぎやかです。
ただ土があるばかりの植木鉢を抱えたまま、とうとう皇帝に謁見する日を迎えたピン。
皇帝に見せる花を持たないピンは、いったいどうするのでしょう?
誠実であることの大切さを説く童話としてはもちろん、木々や鳥や子どもたちの生き生きとした色合いをながめているだけでも楽しい、華やかな一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
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