ちょっぴりやんちゃで、元気いっぱいに育った男の子、すぐり。ある日、すぐりはガラスの馬と遊びたくてたまらなくなります。それはすぐりがあかちゃんのときから飾り棚にいて、たてがみをなびかせ、いまにも走りだしそうにしているガラスの馬でした。「あのうま、にわにだしてやりたいな。そしたら、きっとはしりだすよ。だって、あんなせまいところじゃはしれないもんな」
飾り棚の前にひっぱってきたいすによじのぼり、手をのばすと、なんということでしょう。馬はとつぜんあと足をはねあげるようにしてすぐりの手をふりきり、とびだしたのです。馬もすぐりもどすんと床に落ちました。そして、ガラスの前足が1本折れてしまったのです。
かなしそうな顔で逃げだした馬。すぐりは後を追い、ねむってばかりの鳥「ねむりどり」に会います。おだんごを勝手に食べたのをガラス山のかあさんに見つかり「ばつをあたえなくちゃいけない」と水汲みを命じられます。水がめの奥に馬の姿を見たすぐりは、水がめにとびこみ・・・きらきら光る大きな家にたどりつきました。
つぎつぎに生まれるガラスのあかちゃん。なみだひろいの仕事。不思議なことばかりの家で、だんだん、すぐりの全身はガラスに変わっていきます。
うっかり大事なものをこわしてしまい、「ぼくのせいだ」と胸をいためる気持ち、どんどん周囲の空間が変わっていくさまが、色あざやかに描かれます。林明子さんの挿絵は魅力的で、ガラス山のかあさんや、くまが、すぐりをにらむ表情にドキッ。次第にガラスにとりこまれていくこわさとともに、すぐりの冒険がつぎつぎ世界をつないでいくのです。
作者は征矢清さん。『やまぐにほいくえん』などで子どもどうしの心の交流をみずみずしく描いています。本書は2002年に新見南吉児童文学賞、野間児童文芸賞を受賞しました。読者はすぐりと一緒にガラスの世界を旅している気分になるでしょう。かなしい顔をしてすぐりを見た馬は、すぐりのことをゆるしてくれるでしょうか。
小学2・3年生から読める長編幼年童話。子どものまなざしで冒険を描いた、きらきらガラスのようにひかるファンタジーです。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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