インドネシア、フィリピン、マレーシアにかこまれた海に、漂海民バジョとよばれる人びとがいます。
家族みんなでひとつの船(家船)に住み、魚や貝をとり、自由に海を移動して、海のうえに暮らしているのです。
彼らが暮らすサンゴ礁のきれいな海は、とても静かで、めったに波が荒れることはないそうです。
本書は、バジョのいきいきした暮らしを間近でとらえた写真絵本です。
作者の関野吉晴さんは「グレートジャーニー」(人類がうまれたところから世界へ広がっていった足跡を、逆からたどる旅)を踏破し、武蔵野美術大学で文化人類学の教鞭をとる人物。1999年には植村直己冒険賞を受賞。多数の著作があります。そんな関野さんが、手作りのカヌーでインドネシアから日本に向かったとき、ボルネオ島という大きな島の近くで出会ったのが彼ら、いつか会いたいと夢見ていたバジョでした。
バジョは、食事や料理はもちろん、トイレも、夜眠るのも、子どもを産むのも船の中。争いがきらいで、長い歴史の中で戦争が起こるとさっさと家船で移動し、平和な地域の新しい王に魚貝をさしだす代わり保護を求めるなど、したたかに生き延びてきました。ゆたかな海は生きる糧をめぐんでくれます。子どもたちは10歳くらいになるとボッコという丸木舟を自由に操ることができます。
一艘の船にのりきる家財道具で、人びとがどんなふうに漁を営み、買い物(水上マーケットなどで手に入れます)をし、食事をし、おしゃれを楽しんでいるか、本書を見てみてくださいね。
漂海民として職業を選ばずおだやかに生きてきた彼らの暮らしも、携帯電話やテレビの登場とともに変わりつつあり、今後はどうなっていくかわかりません。でも本書で見せてくれるおおらかなライフスタイルは、私たちの「生活」(もちろん陸の上のイメージ)の固定観念をひっくり返してくれます。持ち物をゆずりあい、男女の役割も固定化されていない。海に暮らす民ならではの柔軟さ・自由さ・謙虚さがあるようです。
「国籍」に守られない厳しさもあるけれど、それを自然として生きる、自由な民、バジョ。
巻末の解説には考えさせられることも多く書かれています。シリーズ「地球ものがたり」の一冊です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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