あかちゃんのほっぺたのようにほんのり桃色に染まった表紙。
花びらのようなおくるみを大切に抱えているこひつじは、ぬいぐるみ「まある」。
優しいぬくもりがあふれだすその表紙をめくると、そこはまどろみの夢の世界が待っています。
物語は、糸瓜(へちま)のなる小さな家からはじまります。
女の子と猫は、おひるねをやめて庭であそび、眠っているのはバギーにのせられたぬいぐるみの「まある」だけ。そして、まあるが目覚めた瞬間からこの絵本の中でもう一つの物語が動き出します。目覚めたまあるは立ち上がって、お花や木々と会話をし、はぐれてしまったもぐらのあかちゃんを抱きながら自らもぐらの母さんを探し始めるのです。そのことを女の子も猫も気づいていません。まあるは、初めて足を踏み入れた未知の場所で何を見て誰と会話をしたのかしら。もぐらの母さんをたった一人でみつけられたのかしら。そしてちゃんとへちまのお家まで帰れたのかしら。
たくさんの疑問符を胸に秘めながら、瑞々しく描かれたまあるの不思議な大冒険を通してあなたは何を感じるでしょうか。
近寄ってそっと耳のそばで語りかけてくるような優しい調べにのって、命あるものの生命の揺らぎを力強く描いた山内ふじ江さん。登場する動物たちはもちろんのこと、木々や花々、野菜たち、風に舞う花びらさえも、絵本の中で命を宿し、そっとページが開かれるその瞬間までじっと身を潜めているのです。この絵本は、山内さんが30年以上じっくりとあたためてきた命の物語。深い深い澄んだ湖のように、のぞけばのぞくほどその深淵は奥深く、多くを語らずとも、絵本を読んだ子ども達の心の奥底に響くことでしょう。
読めば読むほど味わい深い忘れられない絵本になりそうです。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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