藤岡陽子さんの『リラの花咲くけもの道』は、
幼い頃可愛がっていた愛犬の死ともにひきこもるようになった少女が
祖母の助けを借りながら獣医師を目指して北海道の大学で学びながら
命の尊さを気づかされていく長編小説で、
先頃NHKでドラマ化もされた話題作だ。
主人公の友人のひとりに、鳥が大好きな残雪(ざんせつ)という男子学生が出てくる。
彼の父は鳥類学者で、「残雪」という名前は児童文学者の椋鳩十(むくはとじゅう)の作品、
『大造じいさんとガン』に登場するかしこいがんの名前からとられたことになっている。
『大造じいさんとガン』はどんな物語なのか。
この作品は椋鳩十が1941年に発表したもので、色々は版で出版されている。
小学生の教科書に載っていたようで、それで読んだ人も多いかと思う。
その話を絵本の形にしたのが、この『絵本・椋鳩十 大造じいさんとがん』で
絵は多くの動物絵本を描いてきたあべ弘士さん。
ちなみに「ガン」の表記はここではひらがなの「がん」となっている。
狩人の大造じいさんとがんの仲間を率いる「残雪」という名のリーダーがんとの知恵比べの物語だ。
ある時はやぶさに襲われた仲間のがんと助けようと自身の命をなげうってでも戦う残雪の姿に、
大造じいさんはひどく心を打たれ、傷ついた残雪を保護して助けるようになる。
人間と鳥の関係ではあるが、残雪にリスペクトする大造じいさんの姿が潔い。
こういうお話を小さい頃に触れ、鳥類学者になりたいと
藤岡さんの小説に登場するような夢みる子供がでてきたらいい。