『たんぽぽ』を読んでから、作者:甲斐信枝さんの植物の絵本をみつけると、自然と手が
伸びます。ここまで精密に、そして主人公が植物なのにストーリーがあるところがとても
魅力的だからです。
この話では、道端とかでよく見かける、結構生命力の強い雑草の“のげし”が主人公でした。
“のげし”と聞いたら、どれくらいの人が正確に分るでしょうか?
でも、「ほら、花がタンポポみたいな、キクみたいな形だけれど、花はずっと小さくて、背が
高い雑草で綿毛ができるやつ」と言えば、ああ!と分る人も多いのではないでしょうか?
そして、答え合わせのように甲斐さんのこの本の表紙を見れば、そこら辺に生えてるよね...
と一発で思い出すことでしょう。
甲斐さんが『ちいさなかがくのとも』のこの号の付録の冊子で、「草の哀しみ」と題して
こんなことをおしゃっていました。
「いったん芽を出したら、生涯その場所を動くことのできないのが植物の宿命です。
(中略)逃げることも抵抗することもできずに、運命を受けいれるのが彼等です。
動物である人間の私からすれば不可思議な生きものとでも申しましょうか。
声もたてず、表情も乏しい彼等との意思疎通はむつかしく、その心根はしるべくも
ありませんが、それだけに、いえ、それだからこそ、私は彼等に対して、動物からは
感じることのできない、奥深さを感じ、限りなく引き寄せられてしまいます。」
(月刊『ちいさなかかぐのとも』2007年5月号折込付録より引用)
この絵本を読んでいると、確実に甲斐さんは“のげし”と対話していて、その心を代弁
しているんだなと感じます。
なかでも、私が好きなのは、動けない“のげし”に動けるカエルが対比として最初は出て
くるのだけれども、カエルが咲かなくなった“のげし”を心配したり、とうとう動き出した
“のげし”を自分のことのように喜んだりするところです。とても素敵な友情だなと思いま
した。
そして、自然界は動物も植物も深い係わり合いがあるんだなと特に最後のページで
実感しました。
是非、甲斐さんにはもっともっと植物のストーリーを私達に語って欲しいです。
科学絵本だからと敬遠せずに、とても可愛い話なので、是非、読んでみて下さい。
とてもお薦めです。