インドネシアのボルネオ島は、熱帯雨林の島。いちばん大きな川を12日間かけてロングボート(水上バス)でさかのぼっていくとどんな風景が見られると思いますか? 里山風景や昆虫など自然を撮る写真家、今森光彦さんが子ども向けに書きおろしたボルネオ紀行です。
冒頭は、曇天のジャングルに広がる広大な川を見開きでとらえた写真。地元で「宝石の川」と呼ばれるほどの恵みを与えてくれるマハカム川は、泥色で東南アジアにあるただの川に見えます。
ページをめくると一転して、河口の市場や生き生きとした人々の暮らしが鮮やかに出現。そしてまたページをめくると青空の下を走るように水面をすべる舟からの風景、金色の夕暮れ、早朝ミルク色の霧に沈む桟橋、切り立つ岸壁・・・。
旅や冒険に心を躍らせたことがある人ならこのわくわく感をきっとわかってもらえるでしょう。夜を迎え朝を迎え、次第に奥地へすすむ高揚感が本から立ち上ります。
文章は淡々と押さえた口調ですが、作者の人柄がにじみ出て読みやすいです。漢字も使われていますが、ほとんどルビがふられています。
圧巻ともいえる見どころは、やはり終盤。
ロングボートの終着所から踏み入った熱帯雨林のみずみずしい写真に心を射抜かれることまちがいありません。作者がぐうぜんとらえた「森の人」オランウータンの躍動感あふれるスナップも見どころです。
図鑑ともテレビ番組の大自然ドキュメンタリーとも違う、何かの力をもって切りとられた森の世界が、命の水をしたたらせるようにして本の中に収まっています。
小学生はもちろん、旅に憧れ、旅した記憶を持つ大人たちにもぜひ手にとってほしい、ボルネオ島の森と川の息吹を感じる写真絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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