中学三年生の主人公みさとが所属しているのは、影の薄い廃部寸前の弱小部。
「Akebono Broadcasting Club(曙第二中学校放送部)」
通称、「ABC」。
先輩はみんな卒業してしまって、「機材担当」を自称する同級生の古場をのぞけば、残りの部員はみさとだけ。
半年前に入部したばかりで放送のド素人のみさとが、いやおうなしにアナウンスをすることに……。
嫌みなクラスメイトにはバカにされるし、新しい顧問の須貝先生も、なんだかたよりない。
ところが、みさとのクラスにひとりの転校生がやってきたことで、状況は少しずつ変わっていく。
転校生の名は葉月。
葉月はとても美しく、彼女を目当てに他の学校から男子が忍び込んで、問題になってしまうほど。
そんな葉月が、放送部の地区大会で上位入賞を果たすほどの実力を持った、放送経験者だということが判明!
みさとの勧誘で放送部に入部してくれた葉月だが、「アドバイザー」という立場に固執してゆずらず、なぜか決してマイクの前には座ろうとしない。
部員集めに奔走した甲斐あって少しずつにぎわいはじめたABCだったが、やっぱりアナウンス担当はみさとひとり。
そんなある日、顧問の須貝先生の発案で、放送コンクール地区予選へ出場することになって――
その見た目と声の美しさとはうらはらに、頑固でトゲトゲしい性格の美少女。
近所に住んでいるむじゃきなポメラニアンにそっくりの顧問。
部長の機材オタク仲間で、小さな背丈のかわいい後輩。
葉月目的で入部してきたらしい、ちょっと気になるクラスメート。
個性豊かなメンバーがくりひろげる、恋愛あり友情ありの「文化系スポ根」小説!
機材オタクと放送素人のたったふたりしか部員のいなかったABC。
彼らがその活動の幅を広げていく中で励む、アナウンス技術向上のための努力や、放送番組を作るうえでの工夫を、とてもていねいに描写しているのがみどころです。
「ここにいるのは、みな、なにかを伝えようと努力している仲間たちだ」
運動部顔負けの、筋力トレーニングや発声練習。
放送原稿のための、読みやすく聞きやすい文章作りのコツ。
興味をもってもらえる番組構成にするには、どうすればいいか。
人に聴かせるための「間」の取り方など。
知られざる中学放送部の世界に、新鮮なおろどきの連続です!
「隻手の声あり、その声を聞け」
両手を打ち合わせると音が鳴るけれど、では片手だとどんな音が鳴るか?
この禅の公案をテーマに、ABCのメンバーは大会用のラジオ番組を制作します。
言葉によってなにかを「伝える」ということの、もっとも基本的な”とある行為”をそこに見いだしたABCメンバー。
片手によって鳴る音――
彼らはそこに、どんな意味を解釈したのでしょう?
友情も、恋愛も、すべては「伝える」ことからはじまる!
言葉を選ぶということのむずかしさや、人になにかを伝えるということの繊細さを教えてくれる、読後感さわやかな王道青春物語!
(堀井拓馬 小説家)
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『よるの美容院』で、第52回講談社児童文学新人賞を受賞し、第2作目『紙コップのオリオン』でも注目を浴びた著者の3作目。
主人公・みさとはアナウンス経験のない、放送部員。しかも2人しかいない零細クラブだ。能天気な顧問と厳しい担任のせいで、毎週火曜日の昼の放送を行うこと、しかも部員を増やさなければならない状況に陥る。
クラスメイトからの嫌がらせが原因で、孤高の美少女転校生・葉月とのかかわりを持つことになったみさとは、思い切って葉月を放送部に誘う。
さらには気になるクラスメイト・新納まで、入部してくれて…。
葉月のアドバイスにより本格的な活動が始まり、大会エントリーを目指して各々の思いを形にしていこうとする。
みさと自らもバスケ部を途中でやめた過去あり、前の学校で放送部員だったのにマイクの前で一言も発さない葉月にも、隠していたできごとがあった。
温かな描写と、キャラクターたちが美しく輝く、心優しい青春小説!
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