クジラに あいたい ときは
まどが いる
それと うみも
そして、まって
ながめて
「あれ、クジラかな?」と かんがえる じかんが いる
「ちがった、ことりだ」
と がっかりする じかんも いる
印象的なフレーズからはじまる1冊の絵本。
窓枠の向こう側の真っ白な何もない空間を眺めるように少年が一人、しずかにいすに座っています。
ページをめくり、「それと、うみも」と言葉がづづくと、窓の外にはヨットが浮かぶ青い海が現れます。
さらに言葉が続くと、窓枠はなくなり、男の子の目の前には大きな大きな海が広がり、はるか遠くの岬に灯台も見えてきました。
そう、この絵本は、まだ見たことのないクジラにあうため、お部屋の中で男の子が空想の冒険にでるおはなし。
絵本の言葉に誘導されるように、男の子は少しずつ、少しずつ自分のペースで想像していくのです。
すると、男の子の頭の中の心象風景がゆっくりと形をかえ、場所をかえていきます。
空想の旅は、一筋縄ではいきません。誘惑もたくさん。クジラにあいたいのに、海賊船がでてきたり、海が干上がり野原になったり。
ふと、男の子がクジラを忘れて、野原の草の上にいる青虫に気をとられてみていると、
絵本はいいます。「よそみしちゃだめ。」「クジラはでっかいんだ。」「くじらにあいたかったら・・・。」
2013年にアメリカで刊行され、全米各紙で話題になった美しい絵本です。現在では世界11カ国で出版されています。ジュリー・フォリアーノさんの絵本の世界を操る魔術師のような厳しくやさしい言葉に、エリン・E・ステッドさんの精緻な鉛筆画とリノリウム印刷技術を使った素敵な絵が寄り添っています。
しずかなやさしい時間。ながれる。ながれる。空想の冒険に終わりはありません。何度でもやり直しがきくのです。
男の子は、冒険の末、クジラにあうことができたのでしょうか?子どもにも大人にも静かでゆったりとした時間を届けてくれる素晴らしい1冊です。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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