運動場にはたくさんの子どもたち。なわとびをしたり、ボール遊びをしたり、はずむ音やにぎやかで楽しい声がいっぱい聞こえる。
でも、ぼくには大きな音になって響くんだ。バーン、バーン。ガン、ガン、ガン。
向こうにはみんながいて、ここにはぼくがいる。
みんなのいる世界と、「ぼく」がいる世界はちがうの?
「ぼく」の世界は、みんなが気がつくことはできないの?
ぼくのところに優しいそよ風がふいてきて、紙がふわりと降りてきた。
そうだ、飛行機を折ってみよう。そして、空高く飛ばしてみよう。もしかしたら、誰かがぼくに気がついてくれるかもしれない。
「ぼくがここにいる」ってことを。
やがて、ぼくのところにやってきてくれたのは・・・!
みんなとは少し違うみたいだけど、大切な大切な「ぼくの世界」。そして、こんなにも繊細な出会いや心のつながりがあるんだということを描き出しているのは、『ちいさなあなたへ』(主婦の友社)のピーター・レイノルズ。自閉症の子を持つ母親との出会いから生まれたのがこの絵本なのだそうです。
絵と短い言葉の表現で、これ以上ないほどに自閉症の子どもに近づいていると、翻訳者の酒木さんは言います。酒木さんは30年以上に渡って自閉症の子どもたちと治療者として関わられている方。存在をありのままに認め合うことの難しさと大切さを存分に知っているからこそ、その想いや願いが重なって、読む者の心を揺さぶります。
「ひとりの人にとって、あなたはすべてなのかもしれない。たとえ、あなたがおおぜいの中のひとりであっても。」
みんなとはちょっと違った個性の子どもたちにとっても、力にもなってくれる1冊かもしれませんね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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