初夏、兵庫県豊岡市の田んぼでは農家の人々が、手作業で草取りをしています。
腰をかがめて雑草を抜くのは農家の人かと思えば、あれ?くちばし?・・・目を凝らした先にいるのは、コウノトリ。どうやらえさを探しているみたいです。
だけど1970年代に絶滅してしまったはずの国の特別天然記念物コウノトリが、なぜ・・・?
よみがえったコウノトリ、その伸び伸びと空を舞う姿を、美しい田んぼの四季とともにカメラにおさめた写真絵本です。
まだ山に雪が残る早春、大きな羽を広げてコウノトリは飛んでいきます。
くちばしには1メートルを超える長い枝、人工の巣塔に巣をつくっているのです。オスとメス一緒になっての共同作業は、新たな命の誕生の準備。
産まれた卵を外敵から守るために夫婦交代で温め、無事にヒナがかえると、田んぼを飛び回ってわが子のために一生懸命にえさを探します。
そんなコウノトリの親子を見守り、その子育てを一緒に支えているのが豊岡市の人々。コウノトリのえさとなる生き物を田んぼに増やそうと、農薬を使わない米づくりを進めてきました。
その努力が実り豊岡市は今、水生昆虫や魚でにぎやかな田んぼと70羽以上のコウノトリが人々ともに暮らすまちになったのです。
春夏秋冬の田園風景のなか、農作業をする人々や通学途中の子ども達の脇にいるコウノトリは、人が大好きで人が集まる場所にやって来るのだそう。かわいいですよね。
小さなヒナにえさを与えたり、屋根のない巣に夏の日差しが注げば自らが日陰となり雨が降れば羽根を広げてかさとなる親鳥。子どもへの強い愛情は、まるで人間の親子を見ているようです。
この本に登場するコウノトリを撮ったのは、豊岡市のみなさん。写真から人々のコウノトリへの温かい眼差しと、復活に向けて力を合わせて歩んできた静かな努力の営みが伝わってきます。
大人ばかりでなく、地元の小学生たちが田んぼや川に入って外来種の生き物を駆除する姿は、同世代の子ども達の胸にも響くものがあるのではないでしょうか。
豊岡市で生まれ育ったコウノトリは今、日本全国、そしてお隣の国韓国の空にまで羽ばたいています。
ぼく達わたし達の街にも、いつかコウノトリが舞う日がくるかもしれない。
決して遠くはないそんな夢を与えてくれる、力強い一冊です。
(竹原雅子 絵本ナビ編集部)
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