その朝、東88番通りの空き家の前に、引っ越しのトラックがジョウゼフ・プリムさんと、おくさんと、小さい息子のジョシュアくんの荷物を降ろします。プリムさん一家が引っ越してきたのです。その日は一日てんやわんや。ピアノの置き場所に迷い、パイプが見つからなくて探しまわり、引っ越し屋さんが次々に家具を運びこみ。そして、その間ずっと、奇妙な音が聞こえてくるのです。
「シュッ、シュッ、バシャン、バシャン」
おくさんが音のするおふろばのドアを開けてみると……なんとバスタブの中に大きな緑色のワニがいるではありませんか! そんなことってあるでしょうか。驚くプリムさん一家に不思議な手紙が届きます。
「わたしのクロコダイル・ワニをよろしくたのみます。
彼の名前は、ライルです。」
するとライルがやってきて、ボールを頭の上に乗せ、逆立ちで歩き、ビューンと飛んでみせ、おまけにフラフープを上手に回すのです。なんて素晴らしいワニなのでしょう! すぐにライルとプリムさん一家はなかよしになります。家の仕事をなんでもこなし、愛嬌もふりまくライルは、そのうち街中でも人気者になっていき……。
2023年3月には映画が公開され、その原作として再び注目されているこのお話は、アメリカで1962年に発表されたベストセラー児童文学『Lyle, Lyle Crocodile』で、日本では『ワニのライルがやってきた』という題名で1984年に出版されました。大らかな線で描かれたユニークで愛らしいライルの魅力と、先の読めないワクワクするストーリー展開。今読み返しても、あっという間に夢中になってしまうのです。かつて今まで、こんなに私たち人間の暮らしにマッチするワニがいたでしょうか。
プリムさん一家のよき友だちであり、実は芸達者なショーマンでもあるライルの物語。子どもたちも、きっとすぐに好きになってしまうはずですよ!
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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