神秘的なウミガメの生態を、ひとコマひとコマ丁寧に読み進めて行く絵本。
ウミガメがどのように産卵し、子ガメが海に出て、また生まれた海に戻るまでを描いています。
作者は、『おじいさんとヤマガラ』(小学館)、『ふしぎな鳥の巣』(偕成社)など、たくさんの自然絵本を手がけている鈴木まもるさん。
美しく大迫力のタッチで描かれた絵は、まるで音や空気まで伝わってくるほどの臨場感に溢れ、読んでいる誰もがウミガメさんがんばれ!と応援したくなることでしょう。
ウミガメが涙を流しながら産卵し(本当は体内の余分な塩水を出しているそうです)、卵を残して海に返って行った後、卵から孵った子ガメたちは、誰に教わるでもなく、静かに海を目指し進み出し、あまたの試練に立ち向かっていく___。
この絵本を読んで、その試練の大半は人間が作り出してしまった事に気付かされます。
自動販売機の光に誘われて道路に出てしまったり、クラゲと間違えてペットボトルを食べてしまったり、海に漂流したロープにからまってしまったり、多くのウミガメが大人になる前に死んでしまうのです…。
日々の暮らしの中で、自然を大切にする事の意義は、頭では分かっていても、具体的にイメージすることは難しいですね。けれども、この絵本でウミガメの生きる姿を見ているうちに、なぜ大切にしなければいけないかが身につまされます。
ウミガメの生態について、水族館という場所ではなく、絵本を通して学べることの貴重さを、感じさせてくれる一冊です。
(福田亜紀子 元絵本編集者)
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