思いがけず生き物の楽園となった「非武装地帯」を描いた美しい本です。
舞台は朝鮮半島。1953年の朝鮮戦争休戦協定により、南北二つの鉄条網で囲まれた「非武装地帯」。
かつては人も暮らしていたのに、今は誰も住めず、出入りが制限された荒れ地です。
地雷が埋まり、今も軍隊がにらみ合う場所ですが、人間とちがい自由に空を渡る鳥は、ここで安心して翼を休めます。植物は青々と茂り、花は咲き乱れ、動物たちが闊歩します。
非武装地帯に春がくると・・・
草花は芽吹き、海にはゴマフアザラシが泳いできて、軍人たちは鉄条網を直します。
非武装地帯に夏がくると・・・
イムジン河には鳥たちが飛んできて、カワウソやキバノロ(シカの仲間)が遊び、軍人たちはつらい訓練を受けます。
おじいさんは春も夏も秋も展望台にのぼって、鉄条網の向こう側を眺めます。
「非武装地帯」以外に難しい言葉はほとんどありません。
『ソリちゃんのチュソク』で韓国のお盆の里帰りを細やかな情感で描いたイ・オクベさん。
『非武装地帯に春がくると』で初めて見るイ・オクベさんが描く生き物は、表情が生き生きとして屈託なく、いつまでも眺めていたい幸せな明るさが感じられます。同時に、生き物のそばには必ず鉄条網があります。
人と人、国と国とが対立する現実を伝えつつ、いつか離ればなれになったなつかしい友と、鉄条網を開け放ち、肩を抱き合いたいという願いを描いたこの本。終盤の観音開きのページは圧巻です。ここがおじいさんのふるさと・・・。
子どもたちにぜひ見せてあげたい。思春期の入り口に立とうとする小学生高学年・中学生にこそ、身の回りの世界だけでなく、すぐ近くの国にこんな現実があることを。今なお衝突の危険がある「軍事」の一面を。心からそう思える作品です。
最終ページの半島地図(本書で描かれた生き物たちが、実際「非武装地帯」のどのへんにいるのか、記されています)も見てみてくださいね。
日・中・韓平和絵本シリーズの1作です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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