2011年3月11日。地面が揺れ、押し寄せる波が何もかもを呑みつくした……人々は自然の圧倒的な力とあまりに予想を超えた事態に呆然とするばかりでした。本書は、東日本大震災の直後の実話をもとにした絵本です。
デーデ(DD51 852)は、ディーゼル機関車です。軽油で動くエンジンを持っているので、電気がなくても走れます。昔は、いくつもの貨車をひいて磐越西線を走っていましたが、だんだんデーデの働く場所は少なくなり、今は山口でセメントを運ぶ仕事をしています。
3月のある日、デーデは電気機関車に連結されて駅を出発しました。吹きつける風が、異常事態を知らせます。
たいへんだ、じめんがわれた!
うみがたちあがった!
デーデは胸騒ぎがします。いったい何が起きたのだろう? やがて到着した新潟の貨物ターミナル駅には、仲間のディーゼル機関車たちが日本各地から集結していたのでした……。
震災直後、東北本線、東北新幹線、東北自動車道が不通となり、東北への輸送が絶たれました。電気も止まり、寒さと不安に震える被災地の人々に、何とかして燃料を届けなくてはならない。全国から集められたディーゼル機関車は、福島県の郡山まで、大量の燃料タンクを坂道やカーブの多い道を運びました。
優しくも勇壮なタッチの絵で描きだされるのは、キビキビと整備をすすめるたくさんの人たち。そして、夜の闇をつき、風にも雨にも雪にも悪路にも負けず進む機関車の姿。運転する人たちのチームワーク。
ひたすら前へ、前へ。
待っている人がいて、運ばなければならないものがある。届けなければならない気持ちがある。
疾走するディーゼル機関車を通して、人々の熱く切実な想いがつながるさまに、心の奥底から揺り動かされます。
この世界に、必要のない存在なんてない。自分が力を発揮できる場所は必ずある。そして、みんなが思いをひとつにすれば、どんな絶望的な状況にも小さな灯りがともる。絵本のページをめくりながらそんなことを思いました。
(光森優子 編集者・ライター)
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