小さなころに、おかあさんをなくしてしまったシボーン。その手のぬくもりや声はよくおぼえているのに、どうしても顔を思い出すことができません。ジグソーパズルの一番大切なピースをなくしてしまったような気持ちでいつもさびしさを抱えているシボーンに、ある日公園で出会った笑顔のすてきな女の人が元気になる魔法の方法を教えてくれます。シボーンは毎日毎晩その方法を試し、それを心の支えとして成長していきます。さらに女の人は、シボーンのおとうさんにも魔法の言葉を残してくれていました。30歳になるまでその伝言をすっかり忘れていたシボーンがその言葉をおとうさんに伝えると、いつもさびしそうで自分のからにとじこもってばかりだったおとうさんがはじめてわらい、これまで一度も話したことのなかったおかあさんの話を語り始めるのでした。
「おかあさんの死」というつらいできごとを扱っていながらも、絵本全体が温かさで包まれているのは、底抜けに明るくて陽気だったというおかあさんの性格とそれを引き継いでいるシボーン、さらにその娘のエレンの明るい強さや、お話からじんわりと伝わる親子の愛情からでしょうか。また、フレヤ・ブラックウッドさんの描く温かみのある色調の絵と人物の表情のやわらかさも、絵本に温かな空気を醸し出しています。
母から娘へ、そしてその娘へ…、優しくしっかりとつながっていく親子の絆。それを象徴しているような赤い水玉のスカーフにも注目してみて下さいね。こちらは、イギリスの文学賞であるブッカー賞受賞作家、ロディ・ドイルさんの初めての絵本だそう。ゆっくり静かに味わい、そっとそばに置いておきたい優しい1冊です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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