『モモ』『はてしない物語』のミヒャエル・エンデが贈るユーモラスな動物寓話です。
ドイツではだれもが知っているエンデの名作物語、字も多くてちょっと難しいのでは?
そんな心配はすぐに忘れてしまうほど、あっという間にストーリーに引き込まれてしまいます。
舞台はアフリカの草原。
ドラサイという、それはそれはでっかいサイがいた。
サイっていうのは、ただでさえ鉄の板のような皮のヨロイで覆われていて、大きなツノが生えている。
それだけでも十分迫力があって近寄りがたいのに、このドラサイときたら自分以外はみんな敵だと思っている。
ちょっとしたことでも、すぐにかっとなってけんかをふっかけてくるので、まわりのみんなは大迷惑。
みんな怖がって沼には近づけなくなるし、子どもたちは遊ぶのも水浴びするのもやめてしまった。
このままでは生きていけないと、みんなで集まって会議をしたけれど、いい考えはなかなか出てこない…。
とうとう、みんなが集まっていることに腹を立てたドラサイがやってきて暴れまわる始末。
本当に困ったヤツなのです。いばりんぼで暴れん坊。おまけにとんでもなく自己顕示欲が強いのです。
もちろん周りへの迷惑もとんでもないことになっているんだけど、それをエンデがユーモラスに描き出します。そうやって、立場の弱かったり矛盾に振り回されている動物たちが健気にふるまうほど、ドラサイの滑稽さが浮かびあがってくるようです。
ところがドラサイ、周りに誰もいなくなった後も、まだ自分の頑固さと戦い続けるのです。
その結果、どんでもない結末が待ち受けているのですが、その場面の迫力と奥深さには大人も驚かされてしまいます。
この壮大な物語を一気に読み通してしまえるほど魅力的な絵本にしているのは、ブラディスラヴァ世界絵本原画展(BIB)金牌受賞のヨッヘン・シュトゥーアマンが手がけた美しく個性的な絵。それぞれの性格を表情豊かに、躍動感たっぷりに描いています。大人になるまで、何度でも味わいつくすことができる骨太の1冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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