幻想的で優美な世界を描く、樋上公美子さんの初めての自作絵本。
美しい鹿革のスカートをいつもはき、バンビと呼ばれるむすめがいました。
スカートは、昔、バンビのおじいさんからおばあさんへ贈られたもの。
はじめてそのスカートをはいたとき、バンビはあまりに自分にぴったりであることにおどろきます。
スカートはバンビをやさしくつつみこみます。
どこからがスカートで、どこまでが自分なのかわからないくらい……。
そしてスカートをはくたびに遠くから声がきこえてくるような気がします。
誰かが自分を呼ぶような声。
いったい誰……?
ある朝バンビのスカートにまいおりた一羽の白い小鳥に誘われるように、バンビは外へ出かけます。
春の花園へ、夏の星の下へ、秋の森へ。
そして冬。湖で小鳥がいなくなったことにも気づかず夢中ですべるバンビのもとへ、りっぱな角をもった牡鹿がやってきて……。
美しい鹿革のスカートのなめらかさ、やわらかさが絵本のなかにとじこめられています。
黒いひとみがキラキラとかがやく可憐な小鳥が、バンビとよばれるむすめをどこかへつれていってしまいそうな、ぞくぞくする世界が描かれます。
神秘的で、目がはなせません。
前後の見返しにほのかに描かれた牝鹿の美しさが、胸を打ちます。
よくなめされた皮の裏地のピンクがはっとするほど美しく、心に残ります。
はかない美しさがにおいたつ絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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