青いリンネルの上着を着た小さな男の子が、ならの木の下の道をかけていきます。
「遊んでいかないの」
「おまつりにいくんだ」
男の子とならの木の出会いは、少し前。
小さな体でならの木の幹をつたって、上へ上へと登ってきたのです。
「もっと上だよ。もっと上だよ」
枝を鳴らして話しかけるならの木のことばを、男の子はたしかに聞いていたのです。
男の子は毎日来るようになりました。晴れた日はいつも一緒。
けれども今日、男の子は「おまつり」に行ってしまいました。
「おみやげを買ってきてあげるよ」
という言葉を残して。
そのまま時は経ち、いくつもの季節が通りすぎていき、ならの木は帰らない少年を待ち続けました。
「待つってことは、悲しいなあ」
一方少年の方は、若者となり、工場で忙しく働きながら、「なにか」を忘れているよな気がしているのです。はっきりと思い出せないまま更に時が流れ、おじいさんとなった時。彼は大切な約束を思い出し…。
ならの木と少年の、長い約束の物語。読者は何を感じとるのでしょう。
どんなに時が経っていても、決してなくなることはない少年の頃の瑞々しい体験。
そして宝物のように心の奥底にしまってあった「約束」。
戻っていける場所がある、そのことの大切さが美しい絵を通して優しく伝わってきます。
懐かしいような、切ないような、でも読み終わった後に体の中に清々しい風が通り抜ける1冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
続きを読む