まず、この絵本の表紙となっている絵をじっくり見てみてください。
ここには、あの有名な「お菓子の家」を中心に、男の子と女の子の姿や不気味なおばあさんが描かれていて、グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」の物語が浮かび上がってきます。
これを"一枚絵"というのだそうです。
ぱっと見た目に美しく、見れば見るほどお話の要素が隅々にまでぎゅっと詰まったこの一枚、なんて贅沢な絵なのでしょう。
描いているのはロングセラー絵本『こねこのぴっち』の作者としても有名なスイスを代表する画家ハンス・フィッシャーです。物語のはじまりから結末までを、フィッシャーならではの軽やかな線と愛嬌のある表情、そして温かく柔らかな水彩で色付けられています。
"一枚絵”というのは、元々ヨーロッパに古くから伝わる技法で、字の読み書きができない人たちにキリスト教の教えや知識、世界のふしぎなどを伝えるものとして親しまれていたもの。それを有名な画家たちが、グリムのお話などをテーマに美しく描くようになっていったのだそうです。
題名の「メルヘンビルダー」というのは、「メルヘンの絵」という意味。この絵本では、フィッシャーが描いた"一枚絵”「ヘンゼルとグレーテル」の他に「赤ずきん」「長ぐつをはいた雄ねこ」「しあわせなハンス」などグリム童話全9話を、格調高い文章とともに楽しむことができる1冊となっています。文章のカットとして、"一枚絵”から切り出された絵が配置されているのですが、その質の高さにも驚かされます。この大きな絵の中に、どれだけの要素が詰まっているかという事がよくわかります。
文章は大人に読んでもらい、絵をじっくりとながめて楽しむのはもちろん。絵だけをじっくり眺めながら物語を想像していったり、物語をしっかり読み込んでからあらためてみるのも面白そうですよね。
フィッシャーが描き出すグリム童話の世界は、それぞれどのように表現されているのでしょうか。手に取ってみる価値のある作品です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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