はっと目を引く美しい表紙。おなじみの「美女と野獣」の物語が、アーシュラ・ジョーンズの文章とサラ・ギブの美しいイラストで現代に生まれ変わりました。タイトルページではドレス姿を鏡に映してうっとりしている主人公ビューティーですが、次の見開きでは一人うなだれてディナーの席に座った姿。ディナーの相手の姿はなく、悲しい物語の始まりを予感させる一方で、部屋を照らすろうそくの暖かい灯りに目がいきます。
その昔、お金持ちの商人に三人の娘がいて、なかでも末の娘の美しさは目を見張るほどで、皆にビューティーと呼ばれていました。二人の姉はこのことが気に入りませんでした。三人の娘には結婚の申込みが来ましたが、二人の姉は高望み、ビューティーは父親と一緒に家にいて本を読んだりするのが好きで結婚していませんでした。そんなあるとき、父親が財産をすっかりなくしてしまい、田舎で貧乏暮らしをすることになります。そしてある日、雪の中森を抜ける近道で迷った父親は、凍え死にそうになりながらたどり着いた館で、温かいもてなしを受けますが、ビューティーへの土産に庭のバラをつみとったことで、館の主である恐ろしいビーストー野獣ーの怒りを買います。責任を感じたビューティーは自ら望んでビーストの館へ。恐ろしい姿とは裏腹に優しい心を持ったビーストに、ビューティーは少しずつ心を開いていきますが・・・。
誰よりも美しい娘ビューティーと、誰よりも恐ろしく醜い姿のビーストのラブ・ストーリー。意地悪な姉たちの悪役振りも物語を面白くしてくれています。
「わたしたち似たものどうしですね」「わたしは怪物だがね」「たしかに怪物はおそろしく見えます。けれど、その心の中はとてもやさしい。その反対に、やさしそうに見える人のなかに心もちが怪物の人間もいるんです」訳者・石井睦美の紡ぐ日本語訳もとても素敵です。
ルビ入りの漢字の文章で、長めでしっかりした内容の物語。影絵調でうっとりするイラストとあわせて、大人まで楽しめる一冊です。
(金柿秀幸 絵本ナビ事務局長)
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