「いねかりがおわり ほっかりほっかりといねをほすと 田んぼはゆっくりおやすみだ」
おじいさんは、稲刈りの終わった田んぼの泥で泥だんごを作ります。
月の出た夜、「たごとのつき」を祝うために泥だんごは動きだし、田んぼの生きものたちと歌いはじめます。
「はあー おらが田んぼのおまもりこぞう つるんとうまれた泥だんご ほいっ どんどろどん つるんつるん」
ところがそこへ、田んぼの妖怪どろたぼうが現れて─
泥だんごと田んぼの生き物たちのお祭り騒ぎが、なんともにぎやか!
思わず節をつけて音読したくなる、ゆかいな歌が楽しい一冊です。
タイトルにある「たごとのつき」とは、漢字で書くと、「田毎の月」。
稲の刈り終わってまっさらになった田んぼのひとつひとつに、月が映りこんで光る幻想的な光景のことをそう呼びます。
泥だんごが主人公の本作、一見地味な印象のページが続きます。
ところが、田毎の月が現れる場面になると、その印象がすっかりくつがえされてしまうのです。
夜空に溶けるような色合いの満月と、淡く明るい田んぼの景色。
それらをいっそう輝かしく鮮やかに演出する、泥と月との色合いのギャップをぜひ楽しんでください。
ところでひどく無粋なことをいうと、田毎の月と聞いて想像するような、大きな田んぼのそれぞれに月が写りこむ瞬間を見るというのは、科学的にむずかしいそうです。
では、多くの俳人が句に詠み、画家が絵に描いた、本作にも登場するその光景の正体はなんなのでしょう?
つまり田毎の月とは、深まる月夜のうつろいを、一瞬に凝縮した光景─
あるいは、満月の夜の散策を、一枚に編み上げた光景なのです。
本作をきっかけにして、日本という国土ではぐくまれてきた昔の人々の感性について話すのも、いい学びになるのではないでしょうか。
(堀井拓馬 小説家)
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