ひとめ見て、ため息が出るような美しい海の中の世界に、あっという間に惹きこまれていくこの絵本。
人魚が住むのは、サンゴにぐるりと守られているラグーンの中。
「きいぃー きゃー」「きゃー ろろろろろろ」
ラグーンの中で人魚はいつも歌いながら暮らしています。
ここで、お姫様のように可愛らしくはかなげな人魚の姿を想像していた方には、少しの違和感が生じるかもしれません。
登場するのは、はかなげでも、きらびやかでもなく、「そこに生きている人魚」の姿。
恵まれた美しく豊かな環境で、海の生き物たちと共に泳ぎ、獲物を狩り、むさぼり食うのです。
「ころころころころ りりるるるる」
真っ暗な闇となる夜には水の中に漂うように眠り、
「かーこーう きぃーゆぅー きゃい きゃいきゃい」
光の差す輝かしい昼間の水の中では、無邪気に遊びまわっているのです。
ある日、人魚達はラグーンの外へ出て行きます。
そこは外海、見渡す限りの深い青、見たことのない美しく新しい世界が広がっています。
ところが、外の世界には恐ろしく危険な世界でもあり…。
巨大生物に襲われ逃げまどいながら、ラグーンへ逃げもどる人魚達。やっぱり住むべきところはラグーンなのです。
でも、それでも外の世界をまっすぐに見つめ続ける人魚の姿がいっぴき。彼女はいったいどうなったのでしょう…。
海の中を生きる自然、生物たちの、あまりにも美しくあまりにも厳しいその世界に、衝撃を受ける子どもたちも少なくないのかもしれません。でもそれは悪い衝撃ではないはずなのです。自然の、生物たちの本質を、本能で受け止めているはずなのです。
『海獣の子供』『魔女』『リトルフォレスト』などで人気を集める漫画家、五十嵐大介さんの渾身の絵本デビュー作。
その話題性をはるかに超える存在感のある作品が登場しました。
いつかどこかの海の中で、一度でもいいから歌声を聞いてみたいものです。
「きゃー るるるる…」
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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