現代の大人達は、時間に追われる忙しい日々を送っています。ITの発達や成果主義の浸透で、仕事のプレッシャーはますます大きくなり、子どもとゆっくり向き合う時間を確保するのはますます難しくなっています。忙しい毎日ですり減ったり、心の隅に追いやられてしまった優しい気持ちや瑞々しい感性を、絵本を読むことで元あった場所に戻すことができる・・・これが大人に絵本をお薦めする理由です。
絵本は子どもだけのものではない、というのは、今や常識です。余計なものを削ぎ落として磨かれた短い言葉には、人生の機微や、深い真理が込められていて、大切な気付きを得ることができるのです。
私は、絵本の仕事を始める前は、深夜残業、休日出勤は当たり前、家に帰っても寝ているか仕事のことを考えているかのワーカホリックな生活でした。離れて暮らす父が脳梗塞で倒れた、という知らせを受けた時、仕事のことで頭がいっぱいで、「こんな忙しいときに面倒なことが起きた」「見舞いに行っている暇なんてない」と思い、駆けつけなかったのです。数日後に見舞いに行くと父は半身不随の状態で、命も危なかった、とのこと。このとき僕は、自分の心が麻痺していて、感性がすり減ってしまっていることに気づきました。愛する人がどんな気持ちでいるかを察することができないほど忙しいならば、それは恥ずべき忙しさです。以降、恥ずべき忙しさになっていないか、常に自問自答しています。
皆さんは大丈夫でしょうか?
子どもは毎日、新しいことにチャレンジし、成長していきます。うまくいかなくて落ち込むこともあるでしょうし、友達や先生との関係で悩むこともしばしばです。子どもが直面している問題を認識し、子どもの気持ちに共感していくためには、大人が豊かな感性を持っている必要があるのではないかと考えます。 共感してもらえた子どもは、他者に共感することができます。
そう考えて、大人のための絵本ガイドを作りました。
たった一冊の絵本との出会いが、人生観を変えてしまうことさえあります。
そんな出会いのお役に立てれば幸いです。
(金柿秀幸 絵本ナビ事務局長)
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