「春一番の思いよ届け 青空はあなたに続く色の階段」
「立春」と呼ばれる二月四日頃、春の始まりとともに、この絵本も始まります。
「遠く離れている人のことを思うときは、空を見上げてみよう。
キミの頭の上の空は、その人の頭の上の空と、つながっているんだよ。」
歌人であり、ひとつひとつの歌に季節の言葉を添えるのは、260万部を超えるベストセラー歌集『サラダ記念日』を世に送り出した俵万智さん。
この本で初めて、自身の作品集の中から子ども向けに短歌を選びました。
ブランコをこぎながら春の風を体いっぱいに感じる時間。
初夏、カゴいっぱいに積んだ野菜にワクワクしながら、まっすぐな道を自転車で駆け抜ける瞬間。
しゃかしゃか、ぱりり…落ち葉を踏む渇いた感触を、靴を通して楽しむひととき。
肌で、耳で、舌で、匂いで感じる四季、二十四節気。
俵さんの紡ぐみずみずしい言葉たちは、埋もれるように過ぎていくありふれた日常の一日、一瞬にさえも、煌きと息吹を与えてくれます。
そしてこれらの歌を、視覚を通して私たちの生活の風景に重ねてくれるのが、U.G.サトーさんの絵。
『富士山うたごよみ』というタイトル通り、日本人と共に三六五日を歩む富士山。
時に目の前に偉大にそびえ立ち、地平線のその先に道しるべのように待ち、水面に映り。
かと思えば、ティッシュペーパーや風呂敷、ティーカップにも変身。
こんなユーモアたっぷり、表情豊かな富士山に出会うのは、初めての体験です。
私たちには、四季がある。
私たちには、富士山がある。
私たちには、日々がある。
それだけで命の営みに大きな意味を感じられるのは、実はとても幸せなことのように感じます。
響きあう短歌と絵のコラボレーションが、日々を慈しむ日本人としての感性を優しく育んでくれる一冊です。
(竹原雅子 絵本ナビ編集部)
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