「ひとつのばしょでずっとくらすのって
どんなかんじでしょう。
じぶんのベッドがあって、じぶんのじてんしゃがある。
それって、とってもすてきなこと」
アンナは、ときに自分を「渡り鳥みたい」だと思います。
別のときには、「野うさぎみたい」と思います。
そしてときには、「ハチみたい」、「子ネコみたい」、と。
季節によって土地を渡り歩き、知らないだれかの家に住み、身を寄せあって眠る、アンナとその家族。
そんな生活を、アンナはそれぞれの動物の姿に重ねていました。
でも、アンナは本当のところ、「木」なりたいと願っていました。
ひとつの土地に根づき、季節のうつろいを見守りながら日々を過ごす。
そんな生活にあこがれているのです。
この作品を彩る印象的なモチーフとして物語の終盤に描かれるのが、表紙にも飛ぶオレンジ色の蝶。
オオカマダラというこの蝶は、渡り鳥のように季節によって北米と南米を行き来する習性を持っていて、アンナの家族を象徴しています。
この作品の舞台であるカナダでは、収穫の時期になるとメキシコから出稼ぎにやってくる人々がいます。
メキシコとカナダを行き来するそんな季節労働者の家族の姿を、幼い少女の心象風景を通して描いた、ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞受賞作!
とはいえ、そんな文化背景を知らずに読んでも、この作品の魅力が色あせることはありません。
詩的な表現と、無国籍なイメージのコラージュを用いた幻想的なイラストが、幼いアンナの抱えるたくさんの気持ちを如実に描き出しているからです。
知らない土地、知らない言葉、知らない人々。
自分だけが周りからポッカリと浮かびあがってしまったかのような、心細さ。
同じ土地へ住み続けることにあこがれを語りながらも、しかし読後に胸へ残るのは、渡り鳥のような生活に対するアンナの小さな誇りと、家族への愛。
少し切なくも、救いにあふれた物語です。
(堀井拓馬 小説家)
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