ある家のおしいれの中に、一ぴきの古ぼけた、かいじゅうのぬいぐるみが住んでいました。緑色のぶあつい、スベスベの布でおおわれ、体の中には綿がぎっしり、鼻のてっぺんと、頭の上と、手の先にはフェルト製の白いツノとツメ。黒い貝がらの丸いボタンでできている目玉は、左目がずいぶん前に取れて、片目になってしまったかいじゅうです。
このかいじゅう、かつて仲良しだった男の子が大人になって遊ばなくなったため、長い間、暗い押入れの中でただじっとしていました。けれども、ずいぶん前から自分に何かたりないものがある気がしていて、ついにある晩、その何かをさがしに家を出ていきます。
しかしやっと外に出たかいじゅうに降りかかってきたのは、数々の災難!川に落ちて水浸しになったり、アリ軍団に囲まれたり、雑草の林で草の種やトゲがひっついて体がモサモサになったり、カラスにやぶに間違われて頭に止まられたり…。それでもかいじゅうは、出会ったアリたちやカラスに、さがしものが何なのか、何をさがしたら良いのかたずねていきます。次々に散々な目に合ってしまうかいじゅうにはハラハラさせられっぱなしですが、真面目で
一生懸命、でもちょっと抜けていてユーモラスなその姿にはどんどん愛着がわいて、応援したくなってしまいます。
かいじゅうは、無事さがしものを見つけられたのでしょうか?さがしものとは一体何だったのでしょう?
作者は、いつも読者をワクワクさせてくれるストーリー展開で、子どもにも大人にも大人気の富安陽子さん。小学校中・高学年向けのお話をたくさん書かれている富安さんには珍しい低学年向けの幼年童話です。初めて字が多い本に挑戦する時の、絵本からよみものへの橋渡しにぴったり。あおきひろえさんの描くまるまるっとしてさわり心地の良さそうなかいじゅうや、強気なアリ軍団の絵もかわいらしく、さらにお話を盛りたててくれています。親子でかいじゅうのさがしものを一緒に考えながら章ごとに読み進めていくのも楽しそうですね。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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富安陽子最新作!
小学館文学賞、産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞など、数々の受賞を重ねるストーリーテラー富安陽子が、新たに挑む幼年童話。想像の楽しみは、確かな言葉からはじまります。
長い間、押し入れの中にしまわれ、持ち主から忘れられたぬいぐるみの怪獣は、自分に何か足りないものがある気がしていました。その何かをさがそうと家を出たけれど、さがしものって、いったい―?!
外の世界へ飛び出した怪獣は、川にはまって水浸しになったり、さがしもの名人のアリやカラスに翻弄されたり。しかし、あるとき一人の男の子と出会い…。
絵本から物語への橋渡しにおすすめしたい、読む楽しみがいっぱい詰まったお話です。
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