フェリシモ出版の「おはなしたからばこ」シリーズ30巻。大人にもオススメの美しく悲しい物語『おいで、もんしろ蝶』です。
畠のくぼみにある小さな池に、ある朝、生まれたてのもんしろ蝶がやってきて、自分の姿を映しました。その美しさに思わず「ま、きれい!」とつぶやくと、池はくすっと笑って「ああ。あんたはとてもきれいだよ」と答えました。それが、池ともんしろ蝶の出会い。それから毎日、もんしろ蝶は散歩から戻ると「きょうのわたしのようす、どう?」とたずね、池は「妖精というのは、もしかするとあんたのことじゃないかとおもうほどだ」と答えます。無邪気で自由奔放、コケティッシュな魅力を持つもんしろ蝶と、包み込むような優しさで彼女を見守る池。二人のやり取りは、もんしろ蝶が花たちの間で人気者になっても、大好きな恋人ができても、かわいい卵をたくさん産んで母親になっても続きました。やがて、もんしろ蝶の羽は灰色になり、けばだってきて、動かすとかすかにギイと音がするようになります。そして、ある朝ついに……。
詩人であり童話作家でもある工藤直子さんの洗練された文章に、デザイナー・皆川明さんが、無駄をそぎ落としたシンプルで美しい絵を添えた作品。
短い時を生きる蝶と長い時を生きる池。命の長さの違う2つが出会ったからこそ、これほどまで美しく、胸に迫る別れを感じるのかもしれません。
(木村春子 絵本ナビ編集部)
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――ある朝、生まれたばかりのもんしろ蝶が、池のそばにやってきました。
池のおもてにうつる自分のすがたにみとれて、おもわず「ま、きれい!」とつぶやくと、
池はくすっと笑って言いました。「ああ。あんたはとてもきれいだよ」――。こんなふうに蝶と池の出会いは始まります。
きらきらした光のつぶのように輝くもんしろ蝶の短い命と、それに比べれば永遠のように長い池の命の時間。
時を経てある朝迎える蝶の死。短い命の蝶が可哀相なわけではなく、それぞれに尊い命の時間があるという工藤さんの
童話の世界を見事絵にしたデザイナー皆川明さん。深い慈しみに満ちた、心にしみる絵本です。
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