木版画特有の力強い線と青い空もまぶしい鮮やかな色彩が印象的な『とびだせにひきのこぐま』。
北海道の大自然を舞台に、冬の厳しさや動物たちの緊張感あふれる生態を多く描く手島圭三郎さんですが、この作品はこぐまたちのはしゃぎまわる可愛らしさや母ぐまの眼差しなど、喜びと優しさに溢れた内容となっています。
それもそのはず、こぐまたちが生まれるのは冬ごもりの穴の中なんですね。
長く厳しい冬が終わり、春になり暖かくなってから初めて出て行く外の世界。
広い空と広い地面、はね回るうさぎやちょうちょ、そして最初に食べるたべもの“ふきのとう”。
どれもが初めて出会うものばかり。
その驚きと興奮、そして喜びを全身であらわすこぐまたちの様子に、いつの間にか読んでいる方にも感情が重なってくるのです。それはまるで人間の赤ちゃんが初めてはいはいをした時の興奮、好奇心の塊となって何でもかんでも口に入れてしまっている様子と同じなのかもしれません。いつも後ろから見守る母ぐまの幸せな目線に自分を重ね合わせてしまう方もいるのでしょうね。
春が訪れた自然を舞台に生き生きと走り回る動物たち、どこまでも広く青い空。
自然の情景の一場面を切り取ることで、見る者の様々な感情を呼びおこしてしまうのは、手島さんの絵の力に他なりません。何も構えることなく、無心でこの絵本の世界に入っていくことをおすすめします。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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