『だるまちゃんとてんぐちゃん』以来、親子3代にわたって親しまれてきたのが、かこさとしさんの代表作とも言える「だるまちゃん」シリーズ。その第8作目『だるまちゃんとにおうちゃん』が「こどものとも」700号記念として完成しました! だるまちゃんのお友だちと言えば、てんぐ、かみなり、うさぎ、とらのこ、てんじん、だいこく、やまんめ、と、日本各地の郷土玩具、伝説になっているキャラクターが並びます。このたび「におうちゃん」が生まれた背景にはどんなエピソードがあったのか、作者かこさとしさんにうかがいました(1ページ目)。そしてつづく2・3ページ目では担当編集者、井原美津子さんにお話をうかがっています。
累計発行部数650万部(月刊誌のソフトカバーを含む)を超えるだるまちゃんシリーズの魅力に迫るインタビュー、ファン必見です!
- だるまちゃんとにおうちゃん
- 作・絵:加古 里子
- 出版社:福音館書店
だるまちゃんシリーズの8作目です。今回、だるまちゃんと一緒に遊ぶ友だちはお寺の男の子。体が大きく力持ちなので「におう(仁王)ちゃん」と呼ばれています。だるまちゃんとにおうちゃんは力比べをすることになりました。相撲、腕組み相撲、けんけん相撲、尻相撲など、体を使ったさまざまな遊びを楽しみます。
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●戦後の混乱期、お寺の境内で、生きる勇気をおしえてくれた子どもたち
───待望のだるまちゃんシリーズ新作ができました! これまでで一番力強さを感じる、第8作目『だるまちゃんとにおうちゃん』。このお話が誕生するもとになった出来事はありますか。ありましたらぜひおしえてください。
じつは古い話なんです。1945年、終戦の年の4月に戦災で焼け出されて、父の郷里の三重県に帰ったんですが、山奥で耕地がないし、鍬ひとつないんですね。父の名義で田んぼだけはあったのですが、耕すための道具を手に入れられない。戦争のために鋳物は拠出させられて、お百姓さんは自分の鍬さえ取られてしまっているでしょう。いくらお願いしてもダメで、道具がないからしかたなく木の棒で耕したりしてね。これではダメだと、またいろいろ工面して、ようやく宇治に移ったんです。
───宇治というと、京都ですね。
はい。父が若いとき宇治の火薬製造所に勤めていたので、そのときの関係で、社宅みたいな貸家に入れてくださったんです。東京で家が焼けたのが4月、宇治にたどりついたのが6月ですよ。そして8月の敗戦をむかえました。
9月になって単身上京しましたが、混乱する社会と食糧難に疲れ、同級生も特攻機で大勢亡くなったことを知って、とても東京にはいられない、どうしようかと。これからどうやって暮らすなり、生きのびるなりしなきゃいけないのかとぼんやりしていました。
───そのとき、かこさんはおいくつでいらっしゃいましたか。
20歳(現在の数え方では19歳)です。大学に戻ったものの講義も身に入らず・・・でも夏冬の休みには、両親が暮らす宇治へ、情況報告のために満員鈍行の夜汽車で帰りました。家の近くのお寺の、静かな境内に行くのが唯一の慰みでした。
そこは黄檗山萬福寺(おうばくさんまんぷくじ)という有名な古いお寺さんで、インゲン豆を伝えたといわれる隠元和尚が開いた、非常に立派なところなの。中国の方たちのお墓がほとんどを占める、そういうお寺でね。
あるとき境内でぼんやりしていたら、子どもたちが・・・食料難でおもちゃどころか着るものだってろくなものがないときに、松ぼっくりだけで嬉々として遊んでいるんです。
ああ子どもというものは、やっぱり生きていく生き物だ。僕みたいに、どうやったらいいやら、よかったやらと思い悩んでいるような大人とは違う。彼らはこれから生きようっていうんだから、何もなくても自分たちで松ぼっくりで遊んで、生き生きとしているじゃない。この生きようという意欲、この姿がなきゃ、人間はダメなんだ、と感じたもんですから・・・彼らの生活をじーっと見ていて、いつかはこれを何か形にしたい、どうしてもしたいなあと思っておりました。その出来事からこの絵本が生まれたんです。
●だるまちゃんと、松ぼっくりと、すもう遊び
───お話は、子どもたちがお寺の松の木のまわりで遊んでいる場面からはじまります。だるまちゃんがとおりかかって、松の木をゆすってみるけれど、松ぼっくりは少ししか落ちてこない。そこへお寺の和尚さんの孫の「におうちゃん」が出てきて片手で木をたたくと、松葉や松ぼっくりがたくさん落ちてくるんですよね。
「におうちゃん」についてですが、戦後のそのときに、境内で遊んでいた子どもたちのなかにモデルがいたんですか?
そのときの境内にはいなかったんですけど、ただ子どもの頃には、まわりに、におうちゃんみたいな子はいましたね。ちょっと体の大きい子の代表みたいな感じで、和尚さんの孫に「におう」とあだ名がついたことにして、絵本にしました。
表紙の原画を見せていただきました!
だるまちゃんがお寺の前をとおりかかる場面の原画
───におうちゃんといろんなすもうをして遊ぶだるまちゃん。今回のだるまちゃんは、とてもたくましくみえます。だるまちゃんの膝から下、腕部分など、力が入るところも見ごたえありますね!
はっけよい、のこったのこった!
はい、におうちゃんとの対応で、だるまちゃんもたくましく描いています。
───だるまちゃんとにおうちゃんは、一緒に遊ぶ子たちにとって、お兄さん的な存在として描かれているのでしょうか?
子どもたちが輪になってすもうを見守ったり、一方で、輪に入らないけど遠くから見ている小さな女の子もいますね。
そうですね。まわりで見ている子どもたちの様子、絵本でぜひ見てみてください。
犬を連れた女の子は、みんなと遊びたいんだけど遊べない。仲間に入らずに犬と遊んでいるんだけれども、遠くから見ている。これはね、実際に見かけた風景です。当時犬なんか飼っているお宅はほかにひとつもなかったのに(だって食糧難ですから)、どういうわけかその子だけ犬を連れているんですね。僕はちらちらっと横目で見ていて、子どものいろんな複雑な気持ちの動きを、絵だけで示したんです。
最初の場面、少しアップにすると・・・。うしろの女の子、わかりますか?
───はじめは力くらべですが、だんだん、におうちゃんに力が劣るだるまちゃんでも勝てるすもうになっていきます。けんけんずもう、てたたきずもう、しりずもう・・・。弱い子や女の子でも勝てそうなすもうがあれば、教えていただけますか?
草花など、道具を使ったすもうがたくさんありますよ。復刻された僕の本『日本伝承のあそび読本』(*3ページ目でくわしくご紹介しています)にあります。『だるまちゃんとにおうちゃん』のおまけに「とんとんずもう」が付いていますが、それも道具をつかったおすもうですね。
───かこさんご自身はどんな「おすもう」が得意でしたか? 勝負に勝つコツなど、あれば教えていただけますか?
おすもうの勝ち負けより、友だちとのスキンシップが楽しかったんですよ。
───なるほど、たしかにそうですよね! 『だるまちゃんとにおうちゃん』をこれから読む、絵本ナビ読者にメッセージをいただけますか?
繰り返しになりますが、どんな状況におかれても子どもは自分で楽しみ遊ぶ力をもっていることを大人は知っていてほしいです。大人は子どもに何かしてやるとか、与えることだけに気を取られるのではなく、大人は大人ができることに専念してほしいです。
───ありがとうございました!