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好評につき2刷!ことわざがつながって、ひとつの物語になったおもしろ絵本

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まほうのさんぽみち(評論社)

絵本が大好きな女の子とパパの、幸せであたたかいお話。

絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  シリーズ20周年記念!!「こそあどの森の物語」シリーズ岡田淳さんインタビュー

小学校の図書室に必ず並んでいる岡田淳さんの作品。岡田さんが20年描き続けた「こそあどの森の物語」シリーズは、専門家から「日本のムーミン谷」と言われているシリーズでもあります。「こそあどの森の物語」シリーズ20周年を記念し、神戸にある岡田淳さんのアトリエにお邪魔して、おはなしを伺いました。

「こそあどの森の物語」シリーズの魅力をご紹介!

この書籍を作った人

岡田 淳

岡田 淳 (おかだじゅん)

1947年兵庫県に生まれる。神戸大学教育学部美術科を卒業後、38年間小学校の図工教師をつとめる。1979年『ムンジャクンジュは毛虫じゃない』で作家デビュー。その後、『放課後の時間割』(1981年日本児童文学者協会新人賞)『雨やどりはすべり台の下で』(1984年産経児童出版文化賞)『学校ウサギをつかまえろ』(1987年日本児童文学者協会賞)『扉のむこうの物語』(1988年赤い鳥文学賞)『星モグラサンジの伝説』(1991年産経児童出版文化賞推薦)『こそあどの森の物語』(1〜3の3作品で1995年野間児童文芸賞、1998年国際アンデルセン賞オナーリスト選定)『願いのかなうまがり角』(2013年産経児童出版文化賞フジテレビ賞)など数多くの受賞作を生みだしている。他に『ようこそ、おまけの時間に』『二分間の冒険』『びりっかすの神さま』『選ばなかった冒険』『竜退治の騎士になる方法』『カメレオンのレオン』『魔女のシュークリーム』、絵本『ネコとクラリネットふき』『ヤマダさんの庭』、マンガ集『プロフェッサーPの研究室』『人類やりなおし装置』、エッセイ集『図工準備室の窓から』などがある。

シリーズの見返しになっている「こそあどの森」の原画を見せていただきました

「この森でもなければ その森でもない あの森でもなければ どの森でもない」というフレーズがとっても印象的な「こそあどの森」は、5つのフシギな家に住む、住人たちのおはなしです。

「こそあどの森の物語」シリーズ作品一覧はこちら

日本のエブリディ・マジックの旗手・岡田淳さんは元小学校の図工の先生!

『びりっかすの神様』(偕成社)や『ようこそ、おまけの時間に』、『学校ウサギをつかまえろ』、『二分間の冒険』など、児童文学が好きな方なら子どもの頃、手に取ったことがあると思います。これらもすべて岡田さんの作品。岡田さんは神戸大学教育学部美術家を卒業後、38年間小学校の図工教師をしながら物語を発表しつづけました。現在は、図工の先生を定年退職し、執筆のかたわら、小学校の演劇クラブにも関わっているそう。「こそあどの森」シリーズは岡田さんの中でも唯一のハイ・ファンタジー作品なんです。

※エブリディ・マジック…ファンタジーの一種。日常の中に不思議が混ざる形態の物語を指す。別名:ロー・ファンタジー
※ハイ・ファンタジー…異世界を舞台にしたファンタジー作品のジャンル

数々の物語が生まれた場所を感じながら、作者の岡田淳さんのインタビュー、スタートです。

「最初にイメージしたのは、森の中の海賊船でした」

───「こそあどの森の物語」シリーズ20周年、本当におめでとうございます。今日は20年を振り返る形でおはなしを伺えたらと思っています。20年前「こそあどの森の物語」はどのように生まれたのでしょうか?

一番はじめに思い浮かんだのが、森の中に海賊船がある景色でした。そこから想像が膨らんでいって、ぼくらは一人一人が海賊船なんじゃないかと思ったんです。

───私たちが、海賊船…ですか?

そう。海賊船は出会った船とか立ち寄った港とかで奪い合うけれど、ぼくたちも誰かと関係を持つとき、ある部分を奪い奪われという関係になるんじゃないか…と。もちろん、支え合うこともあって、良いにしろ悪いにしろ、お互い何かしら影響し合うんですよ。そういう気持ちが生まれて、森の中に海賊船があるのは良いなって思ったんです。それまでずっと僕は、こちらの世界から、どっかへ行って、何かが起こるとか、こちらの世界に不思議な世界がやってきて、何かが起こる…というおはなしを描いてきて、そろそろ、不思議な世界の中で起承転結がまとまるようなそういう物語が描けないかな…と思っていたんです。

───たしかに岡田さんの書く作品には学校などの日常の世界を舞台にしたおはなしが多いですよね。

せっかく不思議な世界の話を書くなら、何でもありの世界にしようと思いました。それと、シリーズにしたいとも。もしかしたら、トーベ・ヤンソンの「ムーミン谷」シリーズやアーサー・ランサムの作品が頭の隅にはあったかもしれないですね。

───「こそあどの森の物語」シリーズは「日本のムーミン谷」と言われていると伺いました。

それは神宮輝夫(※)さんが言ってくれたのかな。すごく光栄ですね。そんな感じでイメージが湧いてきて、手はじめにスケッチブックにメモを残す感じで絵を描きはじめたんです。

※神宮輝夫…翻訳家、児童文学研究者。『かいじゅうたちのいるところ』の翻訳など、訳書、研究書は多数に及ぶ。

───これが、そのスケッチブックですね! 森の中の海賊船、ウニマル!しかも横にスキッパーがいる!

スキッパーはあんまり世間に打ち解けないような少年で、笑わない。当時のメモ書きに「笑うと歯がすいている様に見える。それでスキッパーなのか、Skipper(船長)なのかさだかでない。」と書いてありますね。

───スキッパーって「船長」という意味なんですか?

大きい船ではキャプテンですが、ヨットなんかではスキッパーって言うんですよ。

───大きな耳はこのころから続いているんですね。

耳の大きな存在というのは「聞く」ことが生きていくうえでとても重要になります。ウサギも耳で聞いて身を守る。スキッパーたちの耳が大きいのは、戦いとは対極にいる存在という思いがぼくの中にあって、だから耳は大きくなければいけないんです。「聞く」っていうことは「受け止める」ってことの代表だとも思っていて、そういう平和主義をイメージしているんです。

───よく見るとシッポがあるように見えますが…。

こそあどの森の住人は、最初はみんなシッポがあったんです。でも、やがて退化していって…おはなしが完成する頃にはなくなりました。こうやって、スケッチブックに描いているうちに、第一話の出だしはドーモさんがやってくる場面にしよう、最初にポットさんの家に行くことにしよう…と話がまとまってくるんです。

───ドーモさんはシリーズの中で唯一、こそあどの森の外からやってくるキャラクターですよね。イヌに似ている容貌なども最初に決まっていたんですか?

ドーモさんははじめ、「テイ・シンキョク」って名前にしようと思っていました。「逓信局」って昔の郵便局ね。でも、この名前は子どもには分からんだろう!と思って今の「ドーモ」にしました。ドーモさん、イヌみたいでしょ? ぼくの中でもまだはっきりとは言えないけれど、気持ちとしては、ドーモさんは町では普通のおじさんなんじゃないか…って思っているんです。こそあどの森に来たら、こういう姿になるんじゃないか…って。

───それはすごい設定ですね。どっちが本当のドーモさんの姿なのか、気になります。他のキャラクターの最初の設定も教えていただけますか。

これは、ふたごの最初の絵ですね。「ふたりがモモンガごっこをしているところ。」って書いてあります。

───ふたごはちょこちょこ名前を変えていて、楽しいですよね。どういう存在として描かれたんですか?

あの2人はね…自分でも、あんなお菓子ばかり食べていたら栄養も偏るだろう…って思うんだけど(笑)。小学校1〜3年くらいまでの子どもって、遊びだけで生きていたいって思っているんじゃないかというか、そんな子どもの思いを体現化した存在です。でもヨットは上手みたいなね(笑)。

───ふたごの名前はどうやって考えているんですか?

苦しみながら考えています(笑)。ふたごの名前の一覧表を作ったりしているんですが。女の子が好きな物とかそのときでてきた食べ物とかに関連したものを書いています…。11巻は珍しく冒険ものの名前ですね。

───「リビー(リビングストン)」と「シュリー(シュリーマン)」ですね。そして、このシリーズの中でも謎に包まれている存在だと思うのが、スキッパーのおばさんの「バーバさん」。物語の中に名前やどこに行っているかは出てきていますが、全然登場しない。

『はじまりの樹の神話』で一度だけ帰ってきているんですけどね。姿は出てきていないんですよ。

───バーバさんはどんな姿をしているのでしょうか…。

本当におばあさんみたいな人じゃないとは思います。アフロかなにかかもしれませんよね(笑)。イメージはないことはないんですけど…そこはまだ伏せておきましょう。

───やっぱり謎が多い! そしてこれは、トワイエさんの原型ですね。

トワイエさんははじめ、「J.ウノカタ」という名前でした。J.ウノカタは、『星モグラサンジの伝説』の帯に登場した「J.宇野片」なんですが…ローマ字にすると「J.UNOKATA」…「ジュン オカタ」になるんですよ。面白いでしょう(笑)。

───本当だ! 『星モグラサンジの伝説』は読んでいたのですが、分かりませんでした。

読者の方もほとんど気がつかないんですが、そういうしかけをおはなしの中にいろいろ入れるのが好きなんですよ。

───ご自身の名前をつけるくらいですから、やはりトワイエさんは岡田さん自身が反映されているのでしょうか?

「こそあどの森」の住人それぞれが、ぼくの中にある要素だとは思うんですけど、やっぱりトワイエさんが近いかなって思うことが多いですね。

───物語の登場人物を作るときはモデルを決めて書いていますか?

学校の先生をしていたからか、「勤務している学校の子どもたちをモデルにしているんですか?」とよく聞かれますが、ぼくの作品の中で明確にこの子!というモデルにしたキャラクターはいないんです。スキッパーはどちらかというと、色んな子どもたちの色んな部分が入っているキャラクターだと思います。そうそう、スキッパーの性格を考えていたとき、こんな話があってね…。あるとき、6年の子が「先生、おれな、中学校行きたくないねん。働いて、アパートに住むのをしたいと思っているねん。」ってぼくに言ってきたんです。

───そのとき岡田さんはなんて答えたんですか?

ぼくは「中学校はやっぱり行った方がええんちゃうか」って言ったけど、そのとき考えたのは、その子は、学校に行きたくない、家で暮らしたくない、自分で勤めてアパートに一人暮らしたい…つまり学校と家庭の両方を拒否してるってことでした。でも、その子のその思いが特別なんじゃなくて、子どもの中にはそういう夢があるよなって思ったんです。だから、そういう状況に素直にいる子どもを描こうと思った。それが「スキッパー」なんですよ。もっと言ってしまうと、スキッパーは大きな社会からも外れている。刺激的な情報から一切切り離されて、自然の情報だけで暮らしている、ひとつの理想として生み出したかったんです。

───1巻のスキッパーはポットさんが来ても何も答えず、眉をしかめるだけ…という、まさに1人の存在だったと思います。それが巻を重ねるごとにだんだん森の住人たちと関わりを持つようになっていくところが、個人的にはすごく成長を感じられる気がしました。

実は、できるだけスキッパーの成長にはブレーキをかけたいなと思っているんです。今の学校や社会で奨励されているのは「積極的に人と関わって、自分の気持ちを言って、人の気持ちを受け止めていく人間」で、それをぼくも小学校の先生のときはそう言っていたけれど、「自分の世界も大切にしていていいんだよ、それはとっても素晴らしいことなんだよ…」というのもぼくは思うんです。

───そうなんですね…。1巻から11巻までの間で、スキッパーはもちろん、それぞれのキャラクターもどんどん個性が際立っていくというか、意外な一面を見せたり、驚く行動をしたり、どんどん魅力的になっていくように感じました。

ぼくは自分をストーリーの作家だと思っていて、どちらかというと、どう物語を動かすかということに重きを置いて人物を造形していると思います。でも、11巻も書いていくと、色々面白い変化が現れてきますよね。スミレさんなんか特に顕著で、最初は怖いお婆ちゃんみたいに思っていたけれど、子どもの頃は全然違った! とか、実は年上が好きなんだ! とかは、物語を書いていく中で決まってきた設定でもあります。

───そんな個性的な住人が住んでいる「こそあどの森」もとても不思議な森ですよね。最初に「この森でもなければ その森でもない…」というフレーズがパン!と飛び込んできて、すごく惹かれました。「こそあどの森」という名前はどのように考えられたのですか?

「こそあどの森」の名前がなぜ浮かんだかって言われると、難しいんですが…。でも、3か月ほど名前をつけるのに悩みました。「こそあどの森」は最初に浮かんだんだけど、もっといい名前はないか…ってずっと考えていて、「クマのプーさん」の「百町森」のような洒落た名前をつけたかった。とにかく、不思議な森を作りたかったんです。その森の中では何でもありのような。今だったら、「てにをはの森」ってつけるかもしれませんね(笑)。

───「こそあどの森」の方で良かったです(笑)。では、最初に「こそあどの森」をどういうイメージで考えられていたかについても教えていただけるでしょうか。

アトリエに置いてあったウニマルの模型。 講演先の小学校でいただいたそうです

基本的には捨てられたものがある場所のイメージでした。そこにはヘルメットもあるし、ヤカンもあるし、貝殻もビンもある。そういうところを子どもが目にして、「ここがいえになってね…」といろいろ想像しているようなノリが当時のぼくの中にあったと思うんです。

───貝殻にビンにヤカン…。まさに「こそあどの森」のみんなが住んでいる家ですね。

1巻から最新刊までの裏話を教えてもらいました!

───登場人物のおはなしを伺っただけでも細かい設定や隠されたしかけがあることを知りました。「こそあどの森」は今まで11冊出ていますが、それぞれ独立したストーリーが展開されていますよね。

そうですね。どの巻から読んでも楽しめるように書いています。ただ、設定としては1巻から続いているおはなしになっているので、前の巻に出てきたエピソードが次の巻にも登場していたり、続けて読むことで気づく設定が隠されている場合もあります。

───それぞれの巻の設定や、裏話など伺えますか?

このおはなしの最後に、みんな3回ずつ、嬉しかったこと楽しかったことを思い出して、ふしぎな木の実を調理する場面が出てきます。そこでスキッパーが思い浮かべた3つめのことは「書斎で本を読んだり化石や貝をみたりしたときのゆったりとした気分」…つまり一人の時間なんです。ここにぼくが先ほど話した、自分の世界も大切にしたいという思いを込めました。その場にみんないるけれど、頭の中ではそれぞれの世界を楽しんでいるというのを描けたらな…と。

トマトさんが実は…という衝撃的な巻です。物語の最後をあの展開にしたのは、そのときは漠然とそうした方が良いと思って決めたのですが、出版した後に読者の方から手紙を頂きました。その方は精神を病んでいるご姉妹がいらっしゃる方なのですが、最後のポットさんの言葉に救われたそうです。その手紙を読んで、ぼくはあのラストにしてよかったと心の底から思いました。

物語のキーとなるタイプライターのモデル。 巡り巡って岡田さんの元にやってきたそうです

「こそあどの森の物語」を考えたとき、一番最初に思い浮かんだのが、森のなかの海賊船のイメージでした。3巻目でそのおはなしが書けたのは本当にうれしかった。『ふしぎな木の実の料理法』で登場したナルホドとマサカがここにも登場します。おはなしを考えたスケッチブックには2人の絵が描いてありますが、最初「マサカ」は「コワイヨ」という名前でした。この絵は実は失敗絵だったんですが、捨てるのがもったいなくて夜の場所を描きました。それからどんな奴が歩いているかな…と考えて生まれたのがこの2人。最初は弦楽器を演奏している設定でした。

ナルホドとマサカ(コワイヨ)のスケッチ

これは、集団遊びをしたことのないスキッパーにかくれんぼを体験してほしくて書いたのですが、大人にも子ども時代があったんだよというメッセージも込められています。ただ、そのことはスミレさんと読者だけが分かる構造にしているので、「もしかしたら…あの子たちは…。」って覗いたヒミツをこっそり教えてくれるようなとても控えめなお手紙を頂きます。ぼくはいつも「そうかもしれませんね。」ってお返事を書いています(笑)。ここで登場する蜜酒は「ミード」という蜂蜜酒です。おはなしを作る前に、近くのイタリア料理のマスターにどうしても味見をしたいと頼んだら、知り合いの伝手を使ってはるばるポーランドから「ミード」を取り寄せてくれました。そのおかげでこの物語が生まれました。

このおはなしもそうですが、物語にはぼくが演劇をやっていたから書けた話が多数存在します。この『ミュージカルスパイス』は中でも特に舞台的な要素が込められています。ここに出てくるミュージカルスパイス「カタカズラの実」。これは「宝塚(タカラヅカ)」からきています。バーバさんの手紙に書かれているカタカズラの説明に宝塚歌劇団の組の名前、「星」とか「月」とかが隠されています。

それぞれ独立したストーリーの中でも、3巻ずつをひとつのまとまりとして書いていた部分もあるので、『ミュージカルスパイス』と『はじまりの樹の神話』はひとつのつながりのある物語でもあります。ですから、『ミュージカルスパイス』に出てくるバーバさんからの荷物の中に、『はじまりの樹の神話』でギーコさんが造った剣が梱包されています。この巻に登場するハシバミは、ぼくの中でも衝撃的なキャラクターでした。ぼくは現代と比べて「こそあどの森」の住人の暮らしを自然の中にある理想的な暮らしという風に書いてきたけれど、ハシバミのいた時代から見ると、それも十分発展している文明だった。僕は割と、人間の文明であれ、森であれ、時間が隠されているというか、そこまでの歴史が感じられる話が好きなんじゃないかなって気づきました。

ここに出てくる「フー」は、最初に「こそあどの森」を考えたスケッチブックの中に原型が出てきています。「体を自由に変えることができるけれど、自分が何なのか分からない…」ってもうこのときに予言するように書いています。こういう風に、前に書いたスケッチブックをたまにめくって、物語に悩んだとき振り返ったりしています。

ここに登場するぬまばあさんは、あまんきみこさんの口調をモデルにしています。「●●なんですよう」という口調なんですが、ちゃんとあまんさんにお伝えしました。あまんさんは「まあ、ひどい! おばあさんだなんて」って言った後「でも、最後がステキだから許してあげる」と言ってくれました。ここに登場する「夕陽のしずく」ということばは、あまんさんの絵本『ゆうひのしずく』(作: あまん きみこ、絵: しのとおすみこ、出版社: 小峰書店)と同じ言葉ですが、使ったのは全くの偶然! 同じ言葉を同じ時期に思い浮かんでいたことがとても嬉しかったのを覚えています。

このおはなしも8巻の『ぬまばあさんのうた』から続いていて、8巻でスキッパーが手にした物を狙う2人組が登場するはなしです。登場人物は何回も描いてどんな顔をしているのが良いか、ポーズは…など考えます。イツカとドコカも納得がいくまで描いています。

このおはなしは最初に考えていたラストが、物語が進むうちに変わってしまった印象深い巻です。最初はトマトさんの投げた石はトワイエさんに当る予定ではなかったんです。でも、自然にあるものを人為的にどうこうしてしまうのは良くないんじゃないかと思って、今のラストに変えました。

  • こそあどの森の物語(11) 水の精とふしぎなカヌー

    みどころ

    足をケガしたトワイエさんにたのまれて屋根裏部屋に荷物を取りにきたスキッパー。だれもいないはずの部屋にだれかいる……? ふたごは、小さな小さなカヌーを川でひろい、小さなひとをさがしに川上に探検に出発します。

───おはなしを読んでいるだけでは気づかなかった、細かい設定まで教えてもらえてすごく嬉しいです。最新刊『水の精とふしぎなカヌー』のおはなしについても詳しく教えていただけるでしょうか。今回はトワイエさんが主人公という印象を受けたのですが…?

トワイエさんは前の『霧の森となぞの声』で足を怪我して、ギーコさんとスミレさんのガラスびんの家で養生していますからね。でも、シリーズを通しての主人公はスキッパーですが……。人も森もそれぞれの歴史を持ち、単純なものじゃないということにスキッパーは気づいていますが、この話では、そういう世界の中で生きるスキッパーが、だれかに対するとき自分がどういうだれであるかはっきりさせるべきだと考え、「ぼくはスキッパーです。」と宣言します。一個人である自分を明確にすることが、世界と関係を作っていくうえで大事だということを思いながら書きました。

───『水の精とふしぎなカヌー』は、「トリオトコのワルツ」と「ふしぎなカヌー」の2つのおはなしが入っていますね。おはなしを2つに分けたのには理由はありますか?

人はひとりひとり、それぞれの時間の中を生きていて、あるときパッと出会う瞬間がある、その交差する時間が面白いなと感じていて、このおはなしの中でも、一か所物語が交差する場面があるんです。そういう構造の物語をやってみたかったので2つのおはなしを作りました。

───どの巻もかなり設定を考えて書いていらっしゃるのですね。実際に書く前にスケッチブック以外に何か準備したりするのでしょうか?

ぼくはおはなしの中に別のはなしが入れ子状態に入っている設定が好きなんです。ですから、自分の中でごっちゃにならないように、物語を考えるときはいつも物語の中の出来事をまとめた「覚書」を書いてから、書きはじめます。

───わあ、これが「覚書」ですか!すごいですね。

物語の「覚書」初公開!!
かなり細かく書き込まれています

『はじまりの樹の神話』などは特に古代から話がはじまるので、ハシバミやホタルギツネ、樹のはなしから覚書が続いていて、実際のおはなしがはじまる前もかなり覚書が長くなっています。

───それぞれのキャラクターの行動が時系列で書かれているのはなぜですか?

ぼくは学生時代から演劇をやっているので、こういう風に書くのが分かりやすいんです。舞台に登場していなくても、この人はこのときこんなことをしている…とか、全員出てきたときはこの人はこういう風に動く…とか、色々決めています。覚書と一緒に、今回のおはなしは森のどの場所で起こった出来事なのか、地図に書くようにしています。

───それぞれの家の位置関係だけじゃなく、『はじまりの樹の神話』の木が出てきた場所や、郵便配達のドーモさんがやってくる方向なども決めているんですね!

基本となる地図は、「こそあどの森」を作ったときに考えていて、そこから後は各巻のときに場所を決めて自分だけが分かる様に地図に書き込んでいます。いつか誰かがこの地図を元に「こそあどの森パーク」を作ってくれないかな…って(笑)。

それぞれの家の位置や、各巻に出てくる場所が一目瞭然!

───「こそあどの森」パーク、すごく行きたいです! 毎回出てくるお茶の時間や美味しい食べ物もこのシリーズの魅力のひとつだと思うのですが、食べ物にもこだわりや設定があるのでしょうか?

ぼく自身が食べ物のシーンが好きなんでね。「ドリトル先生」シリーズで出てきた肉をあぶって食べるシーンに出会ってから、「食べる」場面を描くのが好きなんです。

───ウニマルの中の食糧庫もとても魅力的ですよね。

あそこに並んでいる缶詰は実際に売っている物をモデルにしているのが多いんです。うちの奥さんが色んな所から面白い缶詰を取り寄せてくれて、物語の参考にしています。

───『ユメミザクラの木の下で』の蜜酒も、本物を入手されているんですよね。他に印象に残っている料理はありますか?

『ユメミザクラの木の下で』の「ミード」を取り寄せてくれたマスターには、色々協力してもらっていて、『ぬまばあさんのうた』のときも、淡水の魚を使った不思議な料理の仕方はないですかねって相談しました。そうしたら、オーブンに入れて、何かの実を入れたらちょうど焼けたころに爆ぜて香りがつくのはどうですかね…ってアイディアをくれたんです。「それ、いただきですわ〜」って生まれたのが「ミハルの香草焼き」です。

───あれも本当の料理なんですね。

そうなんです。ぼく自身もマスターに料理してもらって食べましたが、川魚がこんなに美味しいのか!ってビックリするくらい美味しい料理でした。

───物語に登場する食べ物は、岡田さんご自身が味わったものなんですね。

カタカズラはないですけどね(笑)。物語は嘘…というか、作り物の話だから、本物の情報で固めないとリアリティが出ないんです。

───「こそあどの森」の住人以外にも毎回色んなキャラクターが登場するのも読んでいてすごく楽しいですが、特に人気の高いキャラクターは誰ですか?

「こそあどの森」の住人以外では、ホタルギツネですね。

───ホタルギツネは『まよなかの魔女の秘密』『ミュージカルスパイス』『だれかののぞむもの』『はじまりの樹の神話』に登場するキャラクターですよね。

シリーズを巻が出るごとに読んでいる人は『まよなかの魔女の秘密』に出てきたキツネがホタルギツネだと気づく人はあまりいなかったのですが、一気に読んだ人は、ホタルギツネがここで生まれたことに気づくんです。

───これは最初から伏線を引いて物語を作っていたんですか?

伏線として出していたわけではなく、最初はノリでシッポが光っているキツネを登場させました。その後の巻で悩んだときに、「あ、あれを使うたろ!」という感じで思いついて登場させていたら、結果的に伏線になっていって、人気者になったという…。ホタルギツネを出してくださいというリクエストもあって出したこともありますが、それは偽物で…。

───『だれかののぞむもの』ですね。あれは切ないおはなしでした…。キャラクターを生み出すときの苦労や、悩むことはありますか?

最初の設定でスキッパー達にシッポが生えていることからも分かるように、「こそあどの森」の住人はぼくらからみたら妖精のような存在だったんですよ。それが、いつの頃からかおはなしのなかに「フー」や「アサヒ」のような妖精が出てきて…妖精の世界の中の妖精。つまり、スキッパー達がだんだんぼくらと同じ大きさの人間になってきているんです。そういうこともあって、少し前から12巻くらいで一度ピリオドを打った方がいいんじゃないか…という風に考えるようになりました。

右側にいるのが「アサヒ」

───え!?そうなんですか。

「アーサー・ランサム全集」もロフティングの「ドリトル先生」のシリーズも12巻だし、13巻とか14巻で止めるよりはキリの良い数字かなって思っています。もっとも「ドリトル先生」は番外編もあるけれど……。

───そうすると、あと1巻でこのシリーズは終わってしまうんでしょうか…。

そういうことも頭の隅に置きながら、12巻目をどうしようかすごく考えています。

───なるべく15巻、20巻と続いてほしいというのがファンの思いなのですが…。けれど12巻も楽しみにしています。最後に「こそあどの森の物語」シリーズを読んでいる読者へメッセージをお願いします。

ぼくは、好きな本に出会うというのは、ものすごく幸せなことだと思うんです。好きな本と巡り合うというのはものすごくラッキーなことで、味方をひとり手に入れること。ぼく自身も「ドリトル先生」シリーズに出会ったことで、勇気づけられ、支えられ、応援されてきました。それはその当時は分からなかったけれど、この年になって分かることでした。子どもの頃は「この場面、好きだな〜」って思う作品があるだけでもいいんです。本はいつも君の味方です。…それは好きな本と巡り合えばというのが前提だけど、出会えたら一生の宝。忘れちゃってもいいんです。忘れちゃっても、その本はずっと君を応援してくれているから。

───「本は味方」、とても素敵な言葉ですね。児童書は本を手渡す大人の存在も大切だと思うのですが、大人の方へもメッセージを頂けますか?

「好きな本に巡り合うことは幸せなことだ」ということを、子どもの周りにいる人が言ってくれたらいいなと思います。周りにいる人はマラソンの伴走者みたいなもんだから、子どもが違う読み方をしても、間違いを正すことはせず「ああ、そういう風にあなた思うんだ」と見守ってあげなきゃいけない。マラソンはゴールが決まっているけれど、本はそれぞれにゴールがある。道をそれてもいいから、そばにいて、頷いてあげられたらいいなと思いますね。

───私たちも、子どもの本を楽しむ人の伴走者として、寄り添っていけたらと思います。今日は本当にありがとうございました。

<編集後記>
まさに岡田淳さんの描く物語から飛び出してきたような温かい雰囲気をまとった空間の中で、「こそあどの森の物語」シリーズの創作秘話に驚いたり、子どもの本のことや子どもたちへの思いなどにじんとしたり…。夢のような楽しい時間があっという間に過ぎていきました。

小学校の図書室で勤務していた頃、子どもたちからたびたび「おもしろい本ない?」と聞かれて困った時に、いつも助けてくれたのが岡田淳さんの作品でした。いくつかおすすめする中から特に気になるものを借りていった子は「おもしろかった〜」と言って返しにきては、その後次々に岡田さんの本を借りていきました。
今回取材させていただいた「こそあどの森の物語」シリーズについても、いつも図書室にマメに通って来ていた小5の男の子(自分の内なる世界を豊かに持っているところがスキッパーに似ている)に手渡した思い出があります。おしゃべりな子ではなかったので無理に感想を聞くことはしませんでしたが、1巻目を読んだ後つぎつぎにシリーズの本を借りていき、結局全巻読了していたところを見ると、彼なりに気に入って読んでいたのだろうと思います。私自身もはじめて岡田さんの作品に出会った時の“こんなに面白い本があったのか!”という衝撃は今でも忘れられません。

「好きな本に巡り合うことは幸せなことだ」という岡田さんの言葉を胸に、これからもどんどん周りにいる子どもたちに伝えていきたいと思います。
岡田さん、これからも子どもたちの味方となる様々なお話を生み出してくださること、楽しみにしています!

インタビュー: 秋山朋恵(絵本ナビ編集部)
文・構成: 木村春子(絵本ナビライター)
撮影:所靖子

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