新井洋行さんのあかちゃん絵本は、『れいぞうこ』(偕成社)やカラフルな5匹のおばけたちのインタラクティブ絵本「えほんとあそぼ」シリーズ(くもん出版)など、読者参加型のアイディア豊かな作品ばかり。
今回ご紹介するのは、穴あきページをめくると隠れていたお魚が見つかったり、転がってきたタイヤがはまったりするボードブックのしかけ絵本です。『ととちゃんみーつけた』『ころりんタイヤくん』(フレーベル館)の2冊が生まれた背景についてお話をうかがいました。ご自宅のアトリエで、新井さん個人の“好きなもの”についても語っていただいている贅沢なインタビューです。
- ととちゃん みーつけた
- 作・絵:新井 洋行
- 出版社:フレーベル館
魚のととちゃんが、お友だちとかくれんぼ。型抜きのページをめくると、珊瑚などの模様が魚に変身! 美しい色使いのしかけ絵本です。
●かわいいお魚が、ちゅっ。
───好奇心が育つ!「かたぬきあかちゃんえほん」シリーズ。『ととちゃんみーつけた』『ころりんタイヤくん』は、これまでの新井洋行さんの絵本のなかでもちょっとめずらしい、魚や、タイヤの形に穴があいた、しかけ絵本ですね。この絵本を作ろうと思ったきっかけは何ですか。
月刊絵本で『タイヤくん』という企画を考えたことからはじまりました(月刊誌当時のタイトルは『タイヤくん』。のちに単行本で『ころりんタイヤくん』に)。
転がるタイヤくんの絵本を作りたいなと思ったときに、タイヤのところに穴があいていて、そこにころころ転がったタイヤがはまっていったらおもしろいな、と。
それで必然的にタイヤの部分が穴あきになったんですよ。
───「穴あきしかけ絵本を作ろう!」と思って作った本ではなかったのですね。
はい、タイヤくんの絵本を作ろう、が先でした。作ってみたら評判がよかったので、つづけてやりましょうと『ととちゃんみーつけた』を作りました。
───わが家では1歳、5歳の子と楽しみました! 魚の形の穴があいている『ととちゃんみーつけた』は、5歳のおねえちゃんも大好きです。
赤い魚のととちゃん、緑のみどりん、黄色のきいちゃん……。カラフルな色も名前もかわいいです!
───かくれんぼのオニになったととちゃんが、お友だちの魚に「ちゅっ」として「みーつけた」っていうのがいいですよね。
いいですよね〜(笑)。
───「きいちゃん」を見つけられなくて、ページをめくったらウツボの模様の中にかくれていることがわかって「おもしろい」と子どもたちが喜んでいました。
こんなところに魚の形を隠せそうだな、と、自然に思いつくんですか?
僕は、子どもの頃からアクアリウムみたいなものが好きで水槽で熱帯魚を飼っていました。ダイビングも好きなので、実際に海の中の岩場で、ウツボがぐーっと頭を出したり引っ込んだりしているのを見たこともあります。だから頭の中には、何となくイメージがありましたね。
まず頭の中で魚の目や模様になりそうなものを思い起こして、ウツボはたしかこんな柄だったから、黄色いちっちゃい魚ならきっと隠れられるぞ、とか、考えながら……あとはそれを調べて描きました。
ウツボ、下あごがけっこう頑丈そうでこわいですよね。
───本当ですね! ウツボってどこで見られるんですか?
このへんならどこでも見られますよ。東京の近くだと、伊豆とかにもたぶんいるんじゃないかな。
亀が出てくるページは、潮が左から右へむかって流れているんです。亀が泳ぐと、波にゆられて海藻が右へゆらり……となって、次のページではふわーっと亀が上に泳いで、海藻が左にゆれて……。
ページをめくっていくときに、進んでいく時間が気持ちよく感じられたらいいなと思って作りました。
───だから本当の海みたいに感じられるんですね。
それにしても、ページをめくってかたぬきのお魚がぴたっとはまるたびに、「わ、この模様の中にいた!」とびっくりします。何回眺めても不思議です。
自分でも感心します(笑)。毎回赤い魚の「ととちゃん」は隠れるから、赤い模様の場所はいくつも必要ですけど、赤のネタはいっぱいあるからいけるな〜とか。
イメージしている段階ではなんとなく「できそうだな」と思いつつも、本当に模様の中に魚が隠れられるかな、というのはやってみないとわからなかった。作ってみたら「本当にできた!」と思いました。
───『かくかくかっくん』や『ころころまるりん』(共に、学研)もそうですが、ぴたっと形がはまる “気持ちよさ”が新井さんの作品の特徴の一つですよね。お魚同士の「ちゅっ」も、思いつきそうで思いつかなさそう。
魚ってときどきキスしているじゃないですか。熱帯魚とか、キスしている魚がいますよね。それに子どもたちもけっこうちゅっちゅしてる。小さいあかちゃん同士が口のまわりをべちょべちょにして、なめたりかじったり、キスみたいなことをしてるなあと思いませんか。
どんどんちゅっちゅしちゃうって、大人はイヤなことです(笑)。でも子どもにはふつうのことだし、見つけたうれしさで「ちゅっ」としちゃうのはあたりまえじゃないかと(笑)。
───たしかにママもあかちゃんになめられたりかじられたりするし、ママのほうもあかちゃんのほっぺにすりすりしたりキスしたり、しょっちゅうしちゃいますよね。気持ちいいから(笑)。
大人は、生理的な気持ちよさを、理性や文化によってじゃまされていますけど、そういうものをとっぱらって「気持ちいい」「楽しい」という感覚を子どもたちは求めていると思うから。その感覚を探して、絵本に込めていきたいなといつも思っています。「気持ちいい」をがんばって絵本にしたら、子どもたちが楽しんでくれるかなあと。
───ちなみに『ととちゃんみーつけた』の絵は、どんな画材で描いたのですか?
じつは、月刊絵本のときにはアクリル絵の具で手描きで描いたのですが、単行本化にあたってぜんぶMacで描き直したんです。パス(*)で引き直して。
*パス……画像ソフトのペンツール機能を利用して作成する、図形の輪郭線のこと。
───えっ? 手描きで描いたものを……ですか?
一般的に最近はラフをパソコンで描いて、本絵は絵の具で描くことのほうが多いですよね。ところがこの本に関しては、編集者さんに、パソコンで描いたほうがこの本の魅力が生きるんじゃないかと言われました。
僕自身はもともと大学の頃からずっとパスで絵を描いていて、グラフィックデザインも好きだし、すっきりしたきれいな線のものは好きなんです。でもいざ、自分に子どもが生まれてみると、あかちゃんの娘には手描きのぬくもり感のある絵本を選んであげたいなと思うようになりました。だから、娘があかちゃんのときに作った『おしいれ』などの「あけて・あけてえほん」シリーズはアクリル絵の具で描いています。
『ととちゃんみーつけた』以前に作ったあかちゃん絵本は、ぜんぶ手描きです。
───『おしいれ』『れいぞうこ』などもくっきりした線で描かれていますが、手描きなんですね。
はい。僕自身、絵本は絵の具で描こうと思っていたけれど、一方でパスで絵を描くのも好きだし、すっきりした絵柄で描いてみたいなとも思っていたんですよね。それにパスも実際に手を動かして描くのは同じですし、今ならばパスでもぬくもりのある絵本は作れるんじゃないかなと。それで全ページ描きなおしたんです。
結果として、ぼくもこれでよかったなと思います。
───たしかに比べてみると、ぱっと明るくてきれい! 海のブルーもあざやかですね。
でもアクリル絵の具でこんなふうにきれいな線や背景を描けるのもすごいです……。
では『ととちゃんみーつけた』が全部パスで描いたはじめてのあかちゃん絵本なんですね。
『つんっ!』(ほるぷ出版)のほうが先に出版されましたが、描いたのは『ととちゃんみーつけた』が先です。