●アイディアは、まだまだなくならない。
───今まで作った絵本は、何冊くらいになりますか?
約100冊。月刊絵本や雑誌掲載の絵本も足すと100冊超えます。市販されている単行本だけで90何冊かだと思います。
───5、6年前のインタビューで、50冊を目標にしているとおっしゃっていました。(そのときのインタビューはこちら。)
50冊はあっという間に超えましたね。100冊目指していたんですけど、それも超えて。はっきりとは覚えてないけれど、50冊が目標と言ったときは、もしかしたら絵本作家引退を考えていたときかもしれない。
───ええっ。
絵本はもういいや、となるかなあと。先ほど言ったようにもともとはデザイナーをしていましたし、教具や玩具をいっぱいデザインさせてもらっていてプロダクトデザインも好きで。乗り物も好きですし。「絵描き」や「絵本作家」になりたかったわけじゃないんですよね。
本がいちばん好きだから絵本を中心にやっていますが、他にも好きなものがいっぱいあるから、100冊くらい描いたら他の物に目が行くんじゃないかなあと思ってやっていたんですが……。
───そろそろやり尽くした感じがありますか?
ない!(笑)。
全然なくて、結局100冊作っても、自分が思い描いていた感じの本作りに、届くことができていない……。
今まで作ったものがよくないという意味じゃなくて、「もっとこういうもの作りたい!」と頭の中にいっぱいあったイメージが消化しきれてない。
───まだ、なくならないですか?
まだまだ、なくならないですね。
●身体的な「気持ちいい」にフォーカス!
───「あかちゃん絵本」って、あかちゃんが最初に出会ういろんな色、音、形が詰まっていますよね。
僕は、「あかちゃん絵本」って、おもちゃやスポーツに近いと思っているんですよ。一回読めば終わりではなくて、絵本をつかってとんとんとしたり、挨拶したり、くっついたり……、何回読んでも同じ楽しさを味わえる。スポーツもそうですよね、一回やったら終わりじゃない、何回やっても気持ちいいし、楽しい。「身体的な気持ちよさ」とか、「楽しさ」をすごく意識してあかちゃん絵本を作っています。
ぴたっとはまる楽しさとか、音や、めくる気持ちよさ。それって、一回読んで終わりじゃないじゃないですか。
ボール好き、タイヤ好き、スポーツ好きみたいなところと、あかちゃん絵本作るのが楽しいというの、似ているかもしれないですね。大学に入るとき、スポーツ用品をデザインしたくてプロダクトデザイン科に入ったのと、今の絵本作りは地続きかもしれない。僕にとっては、「あかちゃん絵本」という新しいスポーツのジャンルを生み出しているのに近いかもしれない(笑)。
───「あかちゃん絵本」というスポーツですか!?
本という立体の上に、インクという立体がのった紙の束。その条件が本だとして、どれだけ一般的な本のイメージから離れられるだろう、というところに挑戦していきたいなといつも思いながら絵本作りをしています。
今まで大人がもっている本のイメージや、本はこういうものだという定義を裏切りたいです。あとは、読んだときの気持ちよさですね。それを何回でも感じたいから、あかちゃん絵本というジャンルで物作りをしているのかもしれません。
───だから新井さんの絵本は何度もめくりたくなるんですね。
これからの作品も楽しみです! きょうはありがとうございました。
新井洋行さんのアトリエ
アトリエには本と自転車とフィギュアと……素敵なものがいっぱい。
『こけしがこけて』(鈴木出版)にも登場する
かわいい郷土玩具たち。
棚のあちこちからフィギュアが顔をのぞかせます。
左は布張りが素敵なシャンソンの歌詞の古い絵本。右下はディック・ブルーナの花の絵本『bloemen-boek』と、boter-bloem(キンポウゲ)ポストカード(右上)。ポストカードを先に見つけて気に入り、あとで絵本を見つけたそう。
ブルーノ・ムナーリの様々な色と質感の布だけで世界が展開する小さなアートブック(中央)。縦、横、斜めに切り取られた色紙をめくっていく手のひらサイズのアートブックもありました(右下)。
『ART FOR BABY』というタイトルの本も……。
アートやデザイン関係の本が並んでいました。
フレームやパーツ一つ一つまで選びぬかれた愛用の自転車。
江ノ島の海まで、川沿いのサイクリングロードを走るのは最高に気持ちいいのだそうです!

インタビュー・文: 大和田佳世(絵本ナビ ライター)
撮影: 所靖子